205号室にいる 探偵奇談23
救済はない
翌朝。尾花は学校に姿を見せなかった。
電話もラインも繋がらない。一睡も出来なかっただるい身体を引きずり、一限目が始まる前に二年の教室を尋ねる。
「あいつなら朝練で弓道場ですよ」
ああ、弓道部だったか。潤は弓道場に向かう。その途中で、朝練を終えて校舎に向かっていたであろう、くだんの人物を見つけた。
須丸瑞(すまるみず)だ。作り物のようにきれいな顔をしているが、こいつのすごさは見掛け倒しじゃない。感情を見せない涼しい瞳をしているくせに、その奥にぎらついた肉食獣のような鋭さを光らせている。
忘れもしない。一度、対峙したことがある。昨年こいつが転校してきた春の頃だ。
目立つからたちまち有名になった彼を、潤は数人の仲間とからかいにいったことがある。少し脅かしてやろうという思いで。
しかし瑞は、先輩に囲まれても平然としており、まるで石ころでもみるような目でつまらなそうにしていた。こういう嫌がらせには慣れているのだろう。反応しないというのは面白くないもので、仲間の一人が瑞の胸を小突いた。すると瞬時に、火が灯ったように瞳に怒りが満ちた。やり返すでもなく、声を荒げるでもない。その目に睨まれただけで、情けないことに潤らは恐怖したのだ。こいつやばい、と。
「あ、あのさ、俺…」
あのときと同じ。瑞は、冷たい目でじっと潤を見ている。その視線は皮膚を貫き、眉間を通り抜けていくような鋭さだった。命を、直接つかまれているような恐怖を感じる。
「幽霊を面白がるっていうのは、人の死を面白がって弄んでるってことじゃないのか」
瑞の口からそんな言葉が出て来た。びんと、たわんだ空気が一気に引き締まる感覚。幽霊、という単語に、なぜこいつは知っているのだと別の意味で震えあがる。
作品名:205号室にいる 探偵奇談23 作家名:ひなた眞白