205号室にいる 探偵奇談23
返礼
適当な理由をでっちあげ、潤は部活を早退する。言ったん家に帰り、着替え、今度は懐中電灯やデジカメも持ってアパートへ向かう準備を整える。尾花とは、現地で落ち合う予定だ。
和多田に何があったのだろう。動画の再生回数は爆発的に伸びている。瞬く間に拡散されていくが、それと比例するように不安も大きくなる。
それは「こんなことをしてよかったのか」という、今更ながら沸いてくる、道徳めいた後悔だった。夢に見た首を吊る女の影がどうしても、消えない。
ピンポーン
「!!」
飛び上がるほどに驚いた。自分しかいない家に響くチャイムの音。もしかして、和多田か尾花か?階段を降りる。玄関のすりガラスの向こうに黒い影。
「はい?」
呼びかけるが応答はない。なんだよ、急いでるのに。わずかにイラつきながら引き戸を引く。
「え」
ドアをまだ開けきっていないのに、ぬうっとその細い隙間から手が差し入れられて、潤はぎょっとして動きを止めた。枯れたように細く、そして薄汚れた肘から先が、扉の隙間から差し入れられている。
土気色――
その手の上にのっていたのは、失くした潤の生徒手帳だった。それを反射的に受け取って顔を上げたとき。
「はっ?」
もう、そこには腕はない。慌てて扉を開けるが誰もいない。夕暮れにはまだ明るい空。家の周囲に、人影はない。どこに…。
生徒手帳…。どこで落としたのだっけ…。それに思い到り、潤は震えた。
「あ…」
あそこだ…。じゃあ、これを届けてくれたのは…。
土気色の、どう考えても生きていない腕の持ち主。はがれかけた爪に赤いマニキュアの色を鮮明に思い出せる。女。首を。
作品名:205号室にいる 探偵奇談23 作家名:ひなた眞白