205号室にいる 探偵奇談23
何だ。何をしているのだ。得体の知れない恐怖が沸き上がってくる。これはまずい。見つかってもいいから、ここから離れたほうがいい。本能が警告している。しかし恐怖で身体が動かない。見つかる恐怖ではない。得体の知れない物に対する恐怖だった。
どれくらい時間が経っただろう。ぎ、という音がやがて聞こえなくなり、元の静寂が訪れた。侵入者の気配もない。バカな。消えたとでもいうのか?
逃げよう、と和多田が小さな声で言い、潤は頷く。ぴったりと閉めた押入れを細心の注意を払ってほんのわずかに開ける。漆黒の闇の中には、誰の気配も感じない。そのままそっと襖を開けきる。誰も、いない。潤はスマホのライトで玄関を照らす。扉は閉まっている。まるで、誰も入ってきていないように元のままだ。誰もいない。押入れの上部にももちろんいない。
「嘘だろ…」
確かに誰かが入ってきたはずだ。しかし、出て行った気配もない。室内にいるのは間違いなく三人だけだ。
「びびらせやがって!」
尾花が悪態をつきながら出てくる。しかし、強がっているのがわかった。
「…出た、ってやつ?」
和多田の言葉に、沈黙が落ちる。幽霊だっていうのか?
「…か、帰ろう」
「うん」
「ここやばい」
三人はもう動画を回すことなど念頭から消えていた。足音をたてないように玄関に向かう。扉を開けて外に出ると、遠くで車の走る音が聞こえホッとした。
作品名:205号室にいる 探偵奇談23 作家名:ひなた眞白