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短編集73(過去作品)

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 これはいつも思っていることであり、口にもしてきたことである。それは直哉に限らず、いろいろな人に対して口にしてきたことでもあった。
 違和感がないというだけが自然というわけではない。他人との「あ、うん」の呼吸にしてもそうだし、お互いに疲れることもなく、気がつけば終わっていたなどということがそうなのだろう。
 気を遣っていることを感じさせないほどに自然なことはお互いの会話を誘発させる。会話が弾めば二人の間に不思議な空気を作ることもない。付き合いはじめはいつもそんな感じだった。
 いつも相手のことを知りたいと思っていることから、自然と聞きたいことが口から出てくる。相手もそれに普通に答えてくれることで会話がどんどん膨らんでくるのだ。
 時間を感じさせない会話というのが本当に存在するとするならば、私にとってその時間がそうに違いない。
 私の場合、自分から喋る方である。相手のことを知りたいと思うのは当然のことだが、それ以上に相手に知ってもらいたいと思うのである。
「あなたはあまり私のことを聞こうとしないわね」
 そう言って私の気持ちが分からないと言った女性もいた。しかし、大半は私の気持ちが分かってくれているのか、自分から話してくれる。自分から話そうとする言葉には相手への思いやりを感じることができ、自分の甘えたい気持ちをくすぐられているような気がしてくる。
 元々が甘えん坊な自分に気がついたのは、やはり女性と付き合うようになってからだ。
最初はニヒルな面を前面に出し、相手に冷静なタイプと思わせたいにもかかわらず、仲良くなるに連れて、思い入れが強くなることが分かってくるらしい。相手がそういう男性が好きならいいのだが、そうでなければ相手が引いてしまう絶好の機会を作ってしまうことになるようだ。
 相手に自分のことをさらけ出すような性格は今に始まったことではない。それを今さら変えるなどということは土台無理なことだし、特に自分が「甘えん坊な性格」と自覚した時から分かっていたことだ。
 今日直哉のところに何しに来たのか忘れてしまっていた。
 確か恋愛相談だったと思う。私が直哉のところに来るのは恋愛相談と今までは相場が決まっていたからだ。
――それにしても――
 今まで直哉のところに来て自分の目的を忘れてしまうなど考えられないことだった。アルコールがどれだけ入っていようとも、どれだけショッキングな忠告を受けようとも忘れるなど考えられなかった。
 確かにここで相談したのは覚えている。その内容が思い出せないのだ。
 相談して何となく気分的に落ち着いたようなのは頭が覚えている。安心したのか、一気に襲ってきた睡魔に勝てず、そのまま眠ってしまったのも覚えている。
――眠ってしまったことで、記憶が飛んでしまったかな?
 とも考える。
 もし、これが忘れたくて眠ってしまったのなら、逆に忘れられないかも知れない。しかし、肩の荷が下りて安心してしまったのなら、忘れる必要もないことから、覚えているはずだろう。
――それにしても、そんな簡単に忘れられるような内容の話をわざわざ直哉のところにしに来たのだろうか?
 我ながら不思議であった。
 歳を取るたび、年齢を重ねるたび、悩みごとは深刻になっていくだろう。しかし、実際に悩むこととしては、本当に些細なことが多いのも不思議なことだ。現実の社会では、どうしても逃れられない現実を目の当たりにしているせいか、無意識に現実逃避という感情があからさまになってくる。そのためか、些細なことにばかり目が行ってしまい、その一つ一つに一喜一憂するのではないだろうか?
 例えば買い物に行くにしてもそうである。高価なものを買う時はあっさりと買ってくるのに、数千円くらいのものには一時間も二時間も迷ってしまう。すぐに決めてしまえばいいものを、未練がましく悩んでしまうのだ。数千円のものは衝動で欲しくなることがあるのにくらべ、高価なものは最初から「買うぞ」と大体の目星をつけて、あらかじめ選んでおくということの違いなのかも知れない。要するに感じ方の違いなのだ。
 こんな話をすると、
「お前は変わってるよ」
 とよく言われる。しかし、そう言いながら心の中で頷いている人が何人いるだろう。きっと私だけではないはずなのだ。
「君は恋愛に関してはクールだね」
 直哉に言われたことがある。
 確かにあまり女性に対して一歩離れたところから見ているのではないかと感じたこともある。しかし、気がついた時には失恋していて、自分が相手の女性に入れあげているのに気付くのだ。
――最初は相手から好きになってくるのに――
 いつもそう感じている。
「お前は相手が好きになってくれたと思わないと、相手を好きになれないタイプなのかも知れないな」
 極論かも知れないが、と、直哉が私に対しての意見を述べてくれたことがあった。
「そういえば自分から好きになった女性で、付き合いはじめた人はいないよ」
「君は潔いというか、諦めが早いんじゃないか?」
「確かに届かないと思った相手には、自分から行くことはないな」
「それに君の場合、相手に誰か他に想っている人がいると分かったら、すぐに諦める傾向がある」
 ズバリとした指摘である。そうなのだ、私にはその傾向がある。そう言われてどう応えていいか迷っていると、
「優しさというのか、そこで少しひいちゃうのかな?」
「もし、その人とそれからも話をしないでいいと感じるのなら、玉砕覚悟でアタックするかも知れないけど、ずっと仲良くしていきたいと思う人であれば、アタックすることはないね」
「君はきっと欲張りなんだね?」
「欲張り?」
「そう、いい悪いの問題ではないと思うんだけど、きっと失いたくないものに対しては、慎重になりすぎるんだ」
「それはあるかも知れないね。だけど、本当に好きな人じゃないのかも知れないって気にもなるんだよ」
「ほう、分かってるじゃないか。俺もそれが言いたかったんだけどな」
 きっと本当に好きな人が現れたらどうなるだろう?
 時々考えなくもない。きっと自分が分からなくなるくらいに頭の中を征服されてしまうに違いないと思っている。引っ込み思案で、恋愛に対して感じている不安を感じさせない女性の出現を密かに待ち続けているのかも知れない。
 好きだと思っている人が本当に自分が愛すべき人なのかわからない時がある。自分が何とも感じていない人が、実は私のことが好きだったりすることもある。
 私は自分の好きな相手には、いろいろと確認したい方だ。
――きっと鈍感なのだろう――
 いつもそれは感じている。
 好きになった人の気持ちほど分かりにくいものはないと考えていることが多く、本当に自分のことをどう考えているか分からずに、いちいち確認してみたくなるのだ。
 自分のことを好きでいてくれているという思いが強い時など特に頻繁で、それが時として相手の気持ちを傷つけることもある。
 元々嫉妬深いせいもあってか、相手が自分に嫉妬してくれるくらい気があってほしいと思うこともしばしばで、わざと嫉妬させるような行動に出ることもあっただろう。
――これほど露骨にさえならなければ――
作品名:短編集73(過去作品) 作家名:森本晃次