小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

川の流れの果て(7)(終)

INDEX|2ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 


「そいじゃあ親方、お花さん、一年世話になりました。また来年も来ますよ。良いお年をお迎えなすって下さい」
「ありがとうございます。留五郎さん達も、良いお年をお迎え下さい」
「格別のご贔屓を誠にありがとうございました。良いお年をお迎え下さい」
年末の挨拶のためにきちんと頭を下げた吉兵衛親方とお花に見送られ、留五郎達は弥一郎の店に帰る道に就いた。

道の両端には、表通りに店を構える大きな商家や職人の店が雨戸を閉めていて、戸口に吊るされた提灯がぽつぽつと足元を照らしてくれている。それでもやはり辺りは暗いので、歩いている互いの顔はろくに見えず、冷たい夜風に乗って、遠くから除夜の鐘がボォーーーンンン…と曇った音を響かせ始めていた。

「はあー!今年ももう終わりだなー!」
与助は、一年が終わるというなんでもないことに感動しながら気持ち良く酔っ払って、腕を上げて背中を伸ばした。

「そうだなあ、来年は何をするか…」
三郎は今にもやってくる新しい年に何をすべきかと思い巡らした。三郎の目の上には大事にしている人全員が映る。(いつの間に、こんなに多くなったのか。)そう三郎は気が付いた。

「決まってる。親方に小言を言われながら仕事を覚えて、銭を手にしたら目いっぱい遊ぶんだ」
留五郎は江戸の者らしい返事を寄越した。
「ちげえねえちげえねえ」


除夜の鐘はボォーーーンンン…ボォーーーンンン…と鳴り続け、三人は新しい年を心待ちに、今年が終わる満足感に温かく包まれて、布団に一年の疲れを溶かしながら、ゆったりと眠った。



明けて新年である。弥一郎の店の者は、まず全員で初詣に行った。

弥一郎親方は心の中で、家内安全と店の者の無病息災、それから商売が上手くゆくように祈願した。

それから、親方とおかみのおそのは、上客や仕事仲間、出入り先への年始参りに忙しく、職人達は新年初めての仕事の前に、ご馳走と酒を腹に詰め込んで、正月を楽しんだ。

おそのの支度した餅入りの雑煮、栗きんとん、田作り、鰊の昆布巻きや、甘い玉子焼き、煮た海老などのご馳走が膳にそれぞれ並んで、親方は正月のために特上の良い酒を、樽ごと誂えてきた。職人達はその酒を、二日三日ですっかり空にしてしまったのだ。

そして七草になると、ご馳走も食べ飽きたので七草粥にして、七草を過ぎたらやっと仕事に掛かる。職人達は、新年初めての仕事で如何なく力量を発揮しようと、それぞれ全く真剣に、仕事に打ち込んだ。



正月気分も抜けてきて職人達が仕事の息抜きに遊びに出るようになると、留五郎達はまた三人で「柳屋」に出入りするようになる。

「吉兵衛親方、明けましておめでとうございます!」
「明けましておめでとうございます。本年もお引き立てのほどを願います。何にしますか?」
「いい酒を五合と、それから鍋があったら何か誂えておくんなせえ」
「かしこまりました」
吉兵衛親方は商売に真面目なので、普段はともかくとして、節目節目の挨拶の時にはきちんと礼儀を払う人だった。大晦日の日もそうだったが、それを照れくさがって、留五郎達は一礼だけして、空いている床几の端に腰掛ける。