響くがままに、未来 探偵奇談22 後編
「夕島…」
「俺がここに来たのは、瑞。復讐のためじゃない。俺の願いを、叶えてくれ」
「ねがい…?」
光が弾けて、そこはもう森の中ではなかった。
蛍が飛び交う、夏の青い夜。田舎の田んぼ道。草の匂い。さびたバス停。虫の鳴き声。瑞が、取り返したくてしかたなかった、いまはもうない世界の光景。
「ああ、いいなあ…ずっと、ここに来たかったんだ…」
夕島は、夜空を仰いで、笑った。瑞が初めて聞く、嬉しそうな声だった。
「ここに呼ばれるとき、クソ生意気なガキに会った。そいつが、おまえのことをいろいろ教えてくれたよ。初めて死んだときのこと、呪われた存在になったこと、愛するひとに大切にされたこと…。おまえもそこそこ不幸だったんだな」
瑞は何も言えない。瑞の魂は、絶望から救われているから、夕島の絶望と同格ではない。
「でも…瑞は幸せを手にした。その幸福の象徴であるこの夏の夜の風景に、俺はずっと立ってみたかったんだ」
そう言って、夕島はほらと向こう側を指さす。離れた場所に、穂積と紫暮が立っているのが見える。ちゃんと、いてくれる。それを確認してホッとしている瑞の隣で、夕島が寂しそうに言った。
「おまえは命を懸けて助けてくれようとする人間が、そばにたくさんいる。いつも一人だった俺には、それが悔しくて羨ましかった」
そうだ。どんなときにも、瑞のそばには伊吹達がいた。今だってきっと、帰りを待っていてくれる。夕島の悠久の孤独を思うと、胸が張り裂けそうだった。もし自分が夕島の立場だったら、きっと耐えられない。同じように憎んで、憎んで憎んで、苦しくて…。
「でも俺の中にも、ちゃんとあった…」
蛍の光がぼんやりと、彼の柔らかな表情を照らした。
作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 後編 作家名:ひなた眞白