響くがままに、未来 探偵奇談22 後編
うん、と頷くと、童子はやや不機嫌そうに言う。
「今回は前回のような生ぬるい審判では済まぬ。こちらに実害ともいえる影響が生じたのでな。いまこの時より、両者の世は完全に断ち切られる。二度と会えぬし、二度と干渉し合えぬ。よいな?」
童子の厳しい声は、やがて静かなものに変わった。
「だが…忘れたくないと願うくらいは…許してやる」
「え?」
「どうせいつかは全部忘れてなかったことになる…。それまでの間くらい…好きにするがいい」
やったあ、と瑞は童子の背中を叩いた。
「ぶ、無礼者!」
「俺記憶力いい方だから、絶対忘れんもん」
紫暮が呆れたように笑う。
「中途半端に覚えている方がつらいという気もするがね。ま、好きにするといい」
「もう、私たちがおらずとも心配はない」
穂積が言った。
「だから、安心して消えるよ」
東の山際が白んでくる。朝が来る。終わる。もう何も言えず穂積を見つめる瑞に、優しい声が降った。
「――それとも瑞、一緒に来るか?」
手を伸ばされる。
あの夏に、戻る…?
一緒に。
この幸福な夏に戻り。
次こそは終わらせない。
今度こそ間違えない。
大切な人たちと、もう一度あの夏を、やり直す。
それが、今なら、出来る…。
「やめて…」
瑞はこらえていた涙と一緒に、吐き出す。
作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 後編 作家名:ひなた眞白