響くがままに、未来 探偵奇談22 前編
「逃げていいんだよ」
「逃げる…?」
「つらいことは、やめたらいいの」
優しい声は、決して突き放しているわけではないようだ。
「わたしには…柊也くんがどうして悩んでいるのかはわからないけど、これだけは言える。逃げてもいい。やめてもいい。わたしは逃げてよかった。いまは幸せだから」
逃げたいし、やめたい。それを邪魔しているのは、たった一つの執着。
「もう、やめたい…」
「うん…」
「もう、憎みたくない…繰り返したくない…終わらせたい…」
いいよ、と彼女は笑った。
「終わらせて、いいんだよ」
頑張ったね、柊也くん。
その優しい声とともに、温かな腕に抱かれた。
長く忘れていた、人の温かさだった。
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作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 前編 作家名:ひなた眞白