響くがままに、未来 探偵奇談22 前編
玄関から出て梨絵が子犬を地面に下ろす。子犬はキャンとひと鳴きすると、ビーンとリードを引っ張って飼い主を引きずる。
「待って待ってチャッピー!」
夕島は子犬をがっと抱き上げると、目線の高さまで掲げた。
「おいバカ犬。犬は主人の後ろを歩くモノだろうが。引きずるとは何事だ。言うこときかないなら、ウチの犬にしてやろうか」
チャッピーは夕島の迫力に押されたのか、シュンと大人しくなり、トテトテとしおらしく梨絵の後ろを歩き始めた。
「すごい、チャッピー賢くなっちゃった。よっぽど柊也くんに飼われるのが怖いのね」
「チャッピーって何だよ。もっと賢そうな名前にしたら?」
「えー?例えば?」
「…ムサシ、とか」
「チワワにムサシはないんじゃない?」
空はうす曇りだ。梨絵は何やら楽しそうに話しているが、夕島は上の空で返す。いまこうして過ごしている時間も、いつか唐突に終わるのだ。梨絵のことも忘れて、忘れられて、なのに俺はどうしてここにいるんだろう。
「あ、うんち!」
…人が深刻に考えているのに、梨絵はチャッピーのうんちの始末で大騒ぎしている。
「空気よめよムサシ」
「ムサシじゃないってば」
作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 前編 作家名:ひなた眞白