響くがままに、未来 探偵奇談22 前編
「梨絵」
「…何でかわかんないけど、そうなの。子どもの頃から、何度もあったの。ああ、柊也くんはいつかいなくなるんだっていう、変な感覚。それがずっとずっと付き纏ってて…」
彼はそれを聞いて笑った。
「そっか、おまえは知ってたのか」
「え…?」
「知ってて、そばにいてくれたのか」
ありがとう、と彼が言う。今までに聞いた中で、一番優しい声だった。
「逃げてもいいって言ってくれたから、腹が決まったよ」
「柊也くん…?」
梨絵、と腕を引っ張られて立たされた。
「最期に会えたのが梨絵でよかった」
それはまるで、別れの挨拶ではないか。
「俺の中に、ちゃんと誰かを思う気持ちがあって、よかった。気づけてよかった」
「いやだ、なんでそんなこと言うの…」
呼ばれた、と彼は小さな声で言った。
「誰に?どこに行っちゃうの…?もう会えないの…?」
大丈夫、と言ったかと思うと、彼は手のひらで梨絵の視界を隠した。
「寂しいのも、悲しいのも、全部消えてなくなるよ。俺のことを思い出すことも、もうない」
さようなら、と耳元で囁かれたかと思うと、視界の開けた公園には、もう彼の姿はなかった。犬が、ベンチで眠っている。
作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 前編 作家名:ひなた眞白