響くがままに、未来 探偵奇談22 前編
いない。
どこなの、と呟いた梨絵の声は、霧雨の中にとけて消えていく。
「しゅ……う…あれ?」
名前を、呼べない。
「あれっ、なんで!?」
涙が溢れる。心の中から、ものすごい速さで温かな物が零れ落ちていく感覚。焦る。思いださないと、全部全部「なかったこと」になってしまう。
だけど。
「…あたし、誰といたんだっけ?」
記憶はもう、風が砂をさらうスピードで消えていく。残されたのは、犬と梨絵と、そして。
なんだか少し物悲しい気がする、という程度の虚ろな感情だけだった。
後編に続く
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作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 前編 作家名:ひなた眞白