響くがままに、未来 探偵奇談22 前編
慌てなさんな、と紫暮は奥を指さす。
「ここにすべての答えがある」
少し歩いた先は行き止まりになっていた。開けたその空間には
「これが…すべてを映す水鏡…?」
恐ろしく澄んだ、大きな泉があった。水晶のようにきらめく光を放つ底が、透けて見える。波紋一つないその水面に見入っていると、引き込まれそうになる。瑞は目を逸らす。見てはいけないと、本能が告げているのだ。美しすぎて、恐ろしい。これは現世にあってはいけないものだと、瑞は直感する。しかし紫暮が逃げることを許さない。
「目を逸らすな。お役目様に会いたいのなら、自身の役目を思い出せ。繋がりが何に起因するのかを知らなければ、お役目様には会えん」
紫暮が言うと、水面がぼんやりと白く光り始めた。
「お役目様というのは、おまえの血を宿す、おまえ自身の子孫を指す」
「俺の…子孫?」
「そう。おまえは人の身でありながら、神に捧げられた神の供物でもあった」
泉の光がやがてあたりを包み込み、あたりの風景が一変する。
「これは、いつかの世の物語」
視界が赤く染まる。熱気を感じて思わず顔を背けた。
「おまえとおまえの妹は、平安の世で雨を降らす役目を負っていた」
燃え盛る、都の風景。瑞はその中に立っていた。火の粉が飛び、物理的な熱さに声が出る。
「あるとき兄妹は、干ばつの都に呼ばれ雨を降らすよう帝より勅命を賜る。しかし帝は天の怒りを買っていた。数々の人を殺めた上に、この都は建っている。だから兄妹がいくら祈っても、慈悲の雨は降らなかった」
人々の悲鳴と。焦げ付く匂いと、そして、地を揺るがす咆哮。瑞は見た。山のように巨大な黒い影を。どん、どん、心臓の鼓動が大きくなる。黒い影の動きに呼応するように。自分はあれを知っている…。黒々とした思いがせりあがってきて、瑞は口元をおさえた。
作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 前編 作家名:ひなた眞白