響くがままに、未来 探偵奇談22 前編
「ただし瑞一人で、だ。ここに入り生還できる保証はない」
「えっ…」
隣の伊吹が動揺したように瑞を見た。
「この中は我らの懐でもあるが…この世とあの世の境目でもある。だが、この世とあの世というものが一つきりでないことは、もうぬしらも知っているだろう。幾度もやり直しを繰り返して分岐した数だけ、世界というものが存在している。迷子にならぬよう、せいぜい気を付けることだな」
本当に行くのか、と伊吹が腕を引く。
「行きます。俺は夕島を助けたい」
迷いはなかった。
「神域はすなわち、現世とは異なる場。失った物も、見つかるやもしれぬ。しかし神の懐は、一度は呪われたぬしの魂には毒でもあることを忘れるでないぞ」
童子は言った。
「水鏡に映す自らの魂の中に、その者を探すがいい。颯馬よ」
「はーい」
颯馬は入り口を塞ぐしめ縄を外した。
「ここで待ってるからね、瑞くん」
「…瑞、気を付けていけ」
「うん」
伊吹を安心させるため笑顔を見せたが、瑞は自分の膝が震えているのがわかった。この先に何が待っていて、自分がどうなってしまうのかを思うと恐ろしかった。しかし、もうこれしかない。
「先輩、俺、全部終わったら、聞いてほしい話があるんです」
話、と伊吹が聞き返す。
「俺の、好きなひとの話です」
やっと自覚した彼女への思いをどう育てたらいいのか、この人に聞いてみたい。
作品名:響くがままに、未来 探偵奇談22 前編 作家名:ひなた眞白