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呪縛からの時効

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 というが、まさしくその通りなのかも知れない。
 やはり離婚の最大の原因は、すれ違いなのかも知れない。それ違いというと、会話によるすれ違いもあれば、自分たちのように会話がないことでのすれ違いもある。だが、やはり離婚になるほどのすれ違いというと、会話がないすれ違いであろう。
 そのことに気付いた時にはすでに遅かったのだが、どうしてすれ違ったのかということに気付くまでには、そこからさほど時間が掛からなかった。離婚してからいろいろな人と話をする機会が増え、自分の気持ちをぶつけてみたが、どうしてそれを結婚している時に自分の妻にできなかったのかを後悔した。
 そんな話をしていると、やはり離婚経験のある人から、目からうろこが落ちるような話をしてもらったことがあった。
「女ってのは、我慢する時には徹底的に我慢するんだけど、我慢できなくなったら、何を言ってもダメだからな」
 と言われた。
 何となく分かったような気がしたが、自分の中で曖昧な気がしたので、詳しく聞いてみようと、
「どういうことですか?」
 と訊ねたが、
「そんなことは自分で分かるはずだよ。俺がここで言ったとしても、何の役にも立ちはしないさ」
 と言われた。
 なるほど、彼の言うことも一理ある。しかし、何とまく分かっているが、それを認めるということがどこか恐ろしい気がしたのだ。
――俺は臆病だからな――
 と思わず、心の中でため息をついた。
 認めたくないことが臆病だということではないのだろうが、
「女というものを分かっていないのは自分だけではないだろう。その証拠に離婚する人がどれだけいるというのか」
 と自分に言い聞かせたが、これを口にするわけにはいかない。完全に逃げているわけだからである。
 阿久津は、結婚するまでにあまり女性と付き合ったという記憶っはない。相手が付き合っていたと思っているかも知れないことも、阿久津には、
「ただの友達」
 という程度にしか思っていなかったのではないかと感じたが、別に彼女がほしくないなどと考えていたわけではない。
 むしろ、彼女はほしいという思いが強い方だった。
 自分でも女心が分かっていないつもりでいた。高校時代、分かったつもりになって、当時まだ付き合ってもいない女の子を自分では付き合っていると思い込んでいたことで、阿久津本人ではそんなにひどいことを言ったつもりはなかったのに、
「どうしてそんなことをいうの? あなたってひどい人」
 と言われて、こっぴどくフラれる結果になってしまったことがあった。
 完全に青天の霹靂だっただけに、阿久津も自分の何という言葉に彼女が反応したのかも分からない。その時の会話がどういうものだったのかということさえ、すぐに記憶から飛んでしまったのだ。
――確かに女性を傷つけるような言葉だったということなのだろう?
 そんな曖昧なことしか思いつかない自分に嫌気がさした。
 そんな思いから、高校時代には彼女が欲しいという感情は失せていた。それがなくなったのは、大学に入ってからだった。
 それまでの暗い人生を一変させるだけの華やかさが大学のキャンパスにはあった。
「今まで見たこともないような世界」
 こんなにもオープンで、少々のことであっても、許されるような世の中に、阿久津は有頂天になっていた。自分が切り開いた世界でもないのに有頂天になってしまうのは、本来の阿久津からすれば、由々しきことなのだが、その思いは実際の世界とはかけ離れていた。
 結構な人数と友達になった。皆華やかな雰囲気で、それまでの阿久津の知らない世界を彷彿させた。まるで過去から知っていたかのように思えた世界である。
 だが、大学生になってからずっと有頂天だった阿久津が、大学二年生の時に失恋を初めて経験し、かなり落ち込むことになった。まだ付き合ってもいない相手にフラれるという現象にプライドは引き裂かれたのだが、逆にここまでこっぴどかったら、阿久津も割り切ることができたのだろう。
「しょうがないか」
 この一言で、阿久津は開き直ったのだ。
 高校時代には、あまりにも自分に自信がなかった。それがゆえに、猜疑心が強すぎたのかも知れない。そのせいで、余計な心配ばかりして、気が付けばいつもイライラしていた。自分の気持ちに余裕がなかったと言っていいだろう。
 気持ちに余裕がないと、人の言葉が信用できなくなる。それが猜疑心の強さと相まって、自分を抑えることができなくなる。
 自分を抑えることができないというのは、高校時代に始まったことではないが、猜疑心を自覚したのは、その時が最初だった。
 自分が抑えられなくなると、ストーカー行為に走り始めた。彼女のことが気になってしまうと、後をつけたり、行動を監視したい気持ちにさせられた。
 ただ、それはすぐにやめてしまった。ストーカーまがいの行為になりかかった時、警官から職務質問を受けた。
 阿久津も高校の制服を着ていたので、警官の方も形式的な質問だけで、怒られたり、ストーカーまがいの行為をあからさまに批判されたりはなかったが、警官に呼び止められたというだけで、小心者の阿久津はビビッてしまったのだ。
 後から考えれば、あれは彼女の計算だったのかも知れない。警官にそれとなく阿久津を気にしてもらうようにしたのだと思うと、もう阿久津の中では冷めてしまった。
 少しでも相手に抵抗される態度を示されると、阿久津はアッサリと身を引いてしまう。それがただ気が弱い小心者だというだけで片づけてしまってもいいものなのか分からないが、阿久津は自分が小心者であることを本当に自覚したのは、その時だったのではないだろうか。
 自信のなさは大学に入って解消されたわけではなかった。ただ友達がたくさんできたことで、少しは解消された気分になっていたが、もう一つの悪しき性格に気付くことになったのだが、それは、
「調子に乗りやすい」
 ということであった。
 友達がたくさんできたことで、
「自分がまわりから必要とされている」
 などと、大それた考えを持ったりもした。
 一足飛びにそんな考えに至ったわけではないのだろうが、気が付けば、そんな気分になっていた。ネガティブな性格だったはずなのに、いつも間にかポジティブになったのは、まわりの環境に流されやすい性格だったということなのだろう。
 高校時代までは、絶えず何かを考えていたような気がするのだが、その時々で何を考えていたのかなど、我に返った瞬間に忘れてしまっていることが往々にしてあった。大学に入っても、絶えず何かを考えていたが、我に返っても、その時に何を考えていたのか、そんなに簡単に忘れているわけではなかった。
――これも成長したからなのかな?
 と思ったが、本当にそうなのだろうか?
 調子に乗りやすい性格である阿久津は、少なくとも大学二年生の頃までは、毎日が有頂天だった。それまでの孤独な暗い高校生活とは明らかに違っているからだ。
 ただ、三年生になってから、完全に我に返ってしまった。二年生終了時点で取得しておくべき単位数を満たしていなかったからだ。
――なんで皆と同じように遊んでいたのに、自分だけ成績が悪かったんだ?
 と悩んだりした。
 よくよく考えてみると、いわゆる、
作品名:呪縛からの時効 作家名:森本晃次