短編集71(過去作品)
と、自分の方が先だったことをアピールし、相手よりも優位に立とうとしていた、相手も同じようにアピールの強い人が相手では決して友達として成立はしていないに違いない。
妹にとっての友達とはどういうものなのかという定義を聞いてみたい。本当に自分が優位に立ちたいのか、そして家との比較をしたいと思っていて、そのくせ、家には誰もつれてこれないので、家に来たいと思わない人ばかりを探しているのか、それだけなら、あまりにも寂しいというものだ。
だが、友達がほしいという気持ちになるのは、誰に定義があるわけではない。
「友達がほしい」
ただそれだけではないか。そう思えば、理由はどうあれ、友達になってからが大切で、妹もそれなりに友達の間でうまくやっているようだ。
だが、そんな妹も、高校生になる頃には、友達にこだわりを持たなくなってきた。家に連れてくることはなかったが、友達の中に、変な規則性はなかった。こんな言い方をすると今まで妹の友達になってくれた人に失礼ではあるが、その時の紀子が選んだということで、私は偏見の目を持っていたかも知れない。
実際に高校生になってからは、今までの友達とは疎遠になり、新しい友達を作り始めた。明るい人が中心で、今までの紀子を知っている人は、
「どういう風の吹き回しなんだ?」
というに決まっている。
確かに紀子は高校に入って変わった。まず一番に目を見張るのが明るくなったことだ。それまでは自分の作った友達の中で、まるで「お山の大将」を気取っていたのだったが、新しくできた友達の中で、自分が目立とうという姿は見えない。
自分が目立とうというよりも、目立つ人を前に出して、自分は後ろから見ているような感じであるが、ただ明るくなったことで、性格が素直になり、その分、後ろから見ているだけでも、目立ってしまうのだ。
目立つということがどういうことなのか、妹は分かってきたのかも知れない。人を前に出してもオーラがあれば目は自然と自分に向くのだ。
友達の中には、紀子に助けを求める形で友達加わった人もいた。それを紀子は今でも自慢しているが、助けというよりも、仲間が作れなくて悩んでいた友達がいたのだ。それは中学時代の紀子であれば、最初から相手にしないようなタイプだった。それなのに相手にするようになったのは、自分の中学時代を思い出してのことかも知れない。中学時代はあくまで自分中心の友達作りで、自分の気に入らない人は輪に入ることはできなかった。もっとも、自分の嫌いな人が輪の中に入ってくることはなかったので、気が付かなかっただけである。
紀子が今までに相手にしてきた友達は、高校に入ると、どこかのグループに属するようになった。紀子の影響が強いのだろう。何があってもグループの中でなければ生きていけないように仕向けられたと言えば大げさだろうか。
紀子の影響が大きいのは友達の中にいても、決して逆らわない性格が洗脳されていることだった。さすがに命令されれば断れないというほどひどくはないが、それも端の方にいて目立たないようにしているから何とかなっているのであって、それも紀子と一緒にいた時についた性格なのかも知れない。紀子と一緒にいて、唯一よかったのではないだろうか。
紀子は高校に入ると、ミステリーに興味を持ち、ミステリー研究会に入った。私は高校の三年間、部活をしていなかったが、紀子の入ったミステリー研究会から、何度かお誘いがあったものだ。
ミステリー研究会は、私が入学した時に二年目を迎えたばかりの、できて間もないクラブだったのだ。そのこともあり、部員集めには必死だったようだ。
私の友達がその熱意に巻けてかミステリー研究会に入った。すぐにやめるかと思ったが元々がミステリーが好きなこともあって、真面目に続いている。そのおかげで私にも矛先が向いてきたわけだが、私は頑なに拒否した。
本当は墓の部活をしたかったのだが、私がやりたいクラブとは少し差があった。本当に部活とは名ばかり、部室も荒れ放題で、実際に活動しているのかも怪しかった。実際の活動はしていないようで、入らなくて正解だった。もし入っていればもっと大きなショックの元、やめなければいけなかったであろうからだ。
ミステリー研究会には、活気があった。入ってもいいという気になったこともあったが、どうにも自分を納得させられなかった。入りたいクラブがあそこまでひどくなければ入っていたかも知れないが、その前に、入りたいクラブに入ったであろうから、この理屈は最初から成り立たないのだ。
そんな研究会に私の妹が二年越しで入部した。
私が入学した頃は五人くらいの部員しかいなかったが、今では三十人くらいになっている。やはり部員招集活動は功を奏したのか、それとも友達が友達を差そうという活動がよかったのか、部員はコンスタントに増えていったようだ。
活動としては、主にミステリー作家の研究や、自分でミステリー作品を書き、コンクールなどに応募するというのが主流になっている、妹は、自分でミステリーを書く方が好きなようで、何本か書いては応募したりしているようだ。
年に二度発行する機関誌にも妹は何作品か載せていた。最初は機関誌など発行する余裕のなかった研究会も人数が増えることで、学校からのお金も増えたのだ。基本的には部員の数で部費も学校から出るので、部員を何としてでもかき集めようとするのは当然のことだった。
妹の作品は、なかなかの評価を受けていた。一年生にしては文章がまとまっているというのと、内容にも見るものがあるというのだ。私は我がことのように喜んだが、妹はまだまだこれからだと思っているようだ。
ミステリー研究会から、私は二年生の頃、
「すまないが、一本作品を書いてくれないか? 長さやジャンルは任せるから」
と頼まれたことがあった。どうしても機関誌を作るのに、作品が足りないというのだ。
「適当な作品になるかも知れないぞ」
友達の頼みなのでむげに断ることもふぇきないと思い、とりあえず承諾した。元々ミステリーは書いてみたいという願望もあり、願ったりかなったりではあったが、作品にはさすがに自信はなかった。それでも、ゲスト作品ということで、宣伝もうまく載せてもらったこともあって、私の作品は、それなりに評価があったようだ。
私の作品はその一回だけだったが、それを見た妹はまだ中学生だったが、すでに志望校を私と同じ高校に定めていたことから、入学すればミステリー研究会も入部の候補として最初から上がっていたのだ。
入部の動悸は私の作品を見たからだというが、それだけであろうか?
それにしても嬉しかった。こんなことなら最初からミステリー研究会に入部していればよかったと思うほどで、もちろん後悔しても遅いのだが、私の載せた作品を見て入部の意思を固めた妹をいとおしいと思うのだった。
私の分まで一生懸命にミステリーに打ち込んでくれればいいと思っていた。学校の成績は悪い方ではなく、部活をやっていて成績を下げるということもなかった。むしろ、やりがいのあることをしているからか、成績も少しずつよくなっているようだった。
「おにいちゃん、ミステリーって面白いね」
作品名:短編集71(過去作品) 作家名:森本晃次