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心理の裏側

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 最初はお姫様ではないかと思ったが、雰囲気としては、もっとみすぼらしい雰囲気だった。こちらを見ながらよく見ると、その表情は、何かを哀願しているかのように感じられ、助けを求めているように思えた。
「ひょっとして、あの場所に投獄されているのではないか?」
 と感じた。
 投獄されているわりには、鉄格子が嵌っているわけではないので、少し自由なのかとも思えたが、その場所は下は完全に寸胴になっていて、誰かが助けにくるなど、不可能に近かった。
 空からの救援はできるかも知れないが、たぶん、その場所に近づくだけでも難しいだろう。当然見張りは幾か所に設けられていて、四六時中見張られているに違いないからである。
 ここからは愛華の妄想に違いなかったが、牢獄に閉じ込められている女性は美しかった。身なりは明らかな囚人なのだが、綺麗な服を着れば、きっと美人に違いない。
「よく見ると、千春に似ている」
 と感じた。
 愛華のまわりで、一見目立たないが美しさを醸し出している女性というと、千春だけだった。千春のイメージを思い浮かべたから彼女を美しいを感じたのか、それとも彼女の美しさから、千春を思い浮かべたのか分からない。
 千春という女性は、顔立ちがハッキリとした美人というよりも、一見何を考えているか分からないところがあり、視線も一定していないところがあった。それがまわりに目立たないように思わせているゆえんなのだろうが、愛華にはその正体が分かっているかのように思えた。
 千春に美しさを感じる人は、そうはいないに違いない。目立たない人に美しさを感じる感性は、そんなにたくさんの人にあるとは思えないからだ。
 愛華も最初は千春をただの目立たないだけの女の子だと思っていた。それが気になりだしたのは、千春の中に「オンナ」を見たからではなかったか。大人しい雰囲気の女性に美しさを感じるというのは、難しいような気がする。愛華の意識としては、感じる相手と自分の感覚のタイミングが合うことで、相手の美しさに気が付く。つまりは、相手をそのつもりで意識しなければ、いつまで経っても、美しさを感じることなどできないと思った。
 しかし、一旦その美しさを感じると、まるで信仰しているかのような疑いようのない美しさを強烈に意識してしまう。それが千春にはあった。
 千春に美しさを感じるようになったのは、実は大人のオンナを感じたからではなかった。どこか定まらない視線であるにも関わらず、見つめた先で、相手が意識しないではいられない状況を作り上げている。しかし、相手がそのことに気付く前に千春は視線を切ってしまうので、相手にはその意識が伝わることはないのだ。それが愛華の中では、
「相手とのタイミング」
 という表現で表されているに違いない。
 千春の目はいつも焦点が合っていないように思える。最初はそれでも、何か誰にも見えないものを凝視していることで、焦点が定まっていないような気がしたが、そうでもないようだ。
 本当に目が踊っているという表現が正しいのかは分からないが、視線を感じた人が気のせいだと思うくらいに視線を切るのが早く、実際に見ているのかどうかも怪しい気がしたくらいだ。
 千春を見ていると、時間の感覚が自分で分からなくなることがある。それはスナックで見た西洋の城に浮かび上がる千春を意識してから後だったのは分かるのだが、その時の妄想がどのように影響したのか分からない。
 愛華は、ある時から、一日が二十四時間なのに、その時間が定期的に変わっているような気がした。感覚の上での時間が人それぞれで、同じ二十四時間でも、人によって感じ方が違ってしまうのは仕方のないことで、よくあることだとも思っている。しかし、その時間の感じ方が違っていると感じたその時、連鎖反応的に千春を思い出すのは、愛華の中で妄想と時間の感覚にずれを感じているからではないかと思えていた。
 妄想というのもは、元来時間の感覚など違う次元の発想のように思っていたが、意外と大切な要素を部分的に捉えているような気がしている。
 愛華は時間の感覚がマヒしてきた原因を、
「絵の中に千春を見たから」
 と思っていた。
 それは、時間という次元としては、まだ未知の領域である四次元の発想委対し、絵画という平面、つまり二次元の発想が交錯したからだ。
 二次元の世界から見れば、自分たち三次元の世界というのは、未知の世界であり、まるで時間を超越した世界、あるいは夢の中のような普通の発想では説明ができず、納得できないことを見ているに違いない。
 絵などの平面では動きがない。動かせるとすれば、三次元の人間が意志を持って動かさなければ成立しない。それはアニメの世界のように、映像という形でしか正立できないものである。
 愛華が絵画に興味を持ったのは、そのあたりに原因があるのかも知れない。音楽のような発想とは違い、夢を創造した時のような発想が、共有できる発想として、頭の中を巡っているのだ。
 愛華が助けを求めている千春の絵を見た時、自分が初めて千春に対して優位性を感じたということに気が付いた。いつも彼女に対しては目立たないはずの彼女に何かの魅力に取りつかれたかのように意識から離れてくれないことで、千春が自分にとって絶対的な優位性を持っているかのように感じていたのだ。
 もちろん、その感覚は漠然としたもので、発想を紡ぐことはできない。そのため、千春を理解するための、何かのきっかけを絶えず求めていたような気がする。
 この絵はその答えを見つけてくれたような気がする。本当の答えなのかどうか、そもそも何を持って答えを求めているのかが分からないため、愛華は自分の発想が暴走し始めていて。妄想と重なっていると思っているのだ。
 絵の中の千春は愛華に必死になって助けを求めている。
――彼女から私は見えるのかしら?
 千春の様子を見る限り、気付いているようには思えない。
 ただ、空に向かって漠然と助けを求めているだけで、その答えが見つかったようにも思えない。
 愛華自身、自分がその絵の中の千春を見ながら、どんな顔をしているのか、想像するのは困難だった。驚いているというのが一番なのだろうが、その驚きが何を引き連れてくるものなのか、想像もつかなかった。
 絵の中の千春を見ていると、最初は焦っていると思っていたが、次第に別に焦っているようには思えなくなっていた。
 そう感じると、助けを求めているというわけでもなさそうだった。
 彼女はみすぼらしい姿をしているが、実際には綺麗なドレスを着て、化粧でも施せば、この上もなく美しい女性に変貌すると思った。
 普段から制服姿しか見たことがないので、さらにみすぼらしい服を着ているのを見ると、もう少し汚らしく見えてもよさそうなのに、その美しさに変わりはなかった。
 だとすれば、どんなに綺麗な衣装を着たとしても、さほど彼女の美しさは皮ならないのではないかと思えた。
 しかし、実際には綺麗な服装を着たなりに、さらに美しさが増してくるように思えるのは、彼女の美しさを普段から誰も理解している人がいないということを示しているように思えてならなかった。
作品名:心理の裏側 作家名:森本晃次