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心理の裏側

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 愛華は、以前見たピエロを思い出した。あのピエロの表情がなかったことと、この絵を見て千春の顔を思い出したことと何か関係があるのかも知れない。顔を思い出せないという愛華の特徴も、愛華が妄想を抱くたびに、その性格が顕著になっていくような気がしてくると、愛華は今までの自分の発想と妄想を結び付けてしまいそうになるのを感じてしまった。
 ピエロは鏡に写っていた。鏡に写る姿への疑問も思い出し、絵の中の千春に結び付けてみた。
「今この中にいる千春に、過去の疑問や妄想を結び付けてみると、何か今までにはなかった答えが見つかりそうな気がする」
 と、愛華は感じた。
 愛華は千春の絵を見ながら、過去にいろいろな発想であったり、妄想したことを思い出していた。その中でも次元の違いや、階層的な次元への発想を含めて、結界の存在と、それぞれの世界が紙一重であるという思いが強くなってきたことをいまさらのように感じていた。
「愛華にとって千春とはどんな存在なのか?」
 あるいは、
「千春の存在は、愛華にどのような影響をもたらすというのか?」
 という発想は、すべてが自分中心の考えであり。いまさらながらに、自分中心でしか、人は何のできないのだということを認識したような気がした。
 愛華は絵の中の千春の姿から目を切ることができなくなった。そう思って見ていると、必死にこっちに向かって手を振って助けを求めている千春が、果たして本当にこちらが見えているのか疑問を感じるようになった。
 手を振っている千春の気もしhが、手に取るように分かったのは、同じような気持ちになったことがあったのを思い出したからだ。
 それは夢の中でしかありえないことで、夢の中であったことだというのを意識した瞬間に、自分が見られていることで、恐怖よりも嬉しさを感じるという不可思議な感覚になったのを思い出していた。
 だから、今千春がこちらに向かって手を振っている気持ちが分かる気がした。本当であれば、空から巨大な人が覗いているのだから、この上なく恐ろしい光景を見ているはずだ。――そんな光景よりも、さらなるう恐怖を感じたということなのか?
 愛華は、そう思うとゾッとしてくるのを感じた。
 お城の中の千春は女王様だったはず、しかし、彼女は何らかの原因で幽閉されていたのだ。
 ひょっとすると、クーデターが起こり、それまでの人生とはまったく違った波乱が彼女を待ち受けていたのかも知れない。昨日までは女王様としてもてはやされていたにも関わらず、いきなり幽閉され、まるで罪人にでもなったかのような状況に追い込まれれば、死にたいというほどの感覚になってもおかしくはないだろう。
 それだからこそ、空からであっても、助けを求めている時に表れた人を見ると、安心した気分になるのではないだろうか。愛華の中では想像もできなかった。
――さらなる恐怖が巻き起こり、負の連鎖が自分をどんどん追い詰めていくのではないだろうか――
 と感じると思ったからだ
 人は考え方ひとつで人生が左右されるというが、簡単に言えることではないだろう。女王様にとって、それが何を意味するのか、自分が女王様のような立場になったことがないのでよく分からない。
 千春は自分の夢で絶えず女王様をイメージしていたのだろう。愛華はそう思うと、千春の見ている夢を、今自分が見ているという感覚に陥っていた。
「夢の共有」
 この言葉がこの場合の状況に適切なのかどうか分からない。
 夢を誰かと共有することをいつも意識していた愛華だったので、今まで自分が妄想していたことのそのほとんどは、夢で見たことだと感じていた。
 ただ、その夢が誰かとの共有であるという思いも強かった。しかし、その夢は共有している相手とのどちらの夢が本当なのかがよく分からなかった。
 自分が相手の夢に入り込んでいるのか、相手が自分の夢に入り込んでいるのかである。
 そして、愛華が自分自身で人と夢を共有していると感じている夢では、見ている相手も一緒に夢を共有していると思っているのではないかと感じている。そうでなければ、夢の共有という現象は起きないものだと感じたからだ。
 人の顔を覚えられないということも、諦めてしまっていた芸術に、またしても目覚めてしまったということも、誰かと夢を共有することで自分を正当化しようとしている表れではないかと思うようになっていた。
 愛華は、今いろいろ考えているが、これが自分の持っている意志ではないような気がしていた。
「意志を持たない人間が見る夢だからこそ、誰かとの間に夢を共有できるのではないか?」
 という思いである。
 夢の中で意志だと思っていることは、妄想であり、その妄想も誰かと共有することで夢として意識されること、
「つまりは、夢というのは、意志を持たない人間が感じる妄想の総称であり、そんな人が寄せ集まって一つの夢というものを、一人の人間に見せているのではないだろうか?」
 という思いである。
 夢を共有しているとしても、愛華には、
「同じ夢を見ている人が同じ時間に、同じ夢を見ているとは思えない」
 という感覚があった。
 次元が違えば、同じ空間に存在することができても、同じ時間に存在することはできない。逆に同じ時間に存在できれば、同じ空間には存在できない。それが異次元の世界なのだとすれば、夢も同じ時間で存在し、共有できるものではないと思えたのだ。
「遠い空の向こうい光っている星は、何百年も前に光ったものが、やっと今になってこの地球に振ってきている」
 と言われている。
 いわゆる何百光年と離れた宇宙での出来事であるが、宇宙にも限界があるのではないかと愛華は思っている。
 例えば数百年に一度、世界は繰り返すのではないかという思いがあり、それは、数百年前に光った光がやっとの思いでこの地球に到達した感覚であった。
 夢には時系列がないというのも、同じ理屈で考えられる。ひょっとすると、数百年の時を超えて、繰り返している場所と同じところに到達しているとすれば、それはまったく違和感のない世界でのことになるからだ。そんな世界を見せているのが夢だとすると、共有している人は、数百年の時間を経ているのかも知れない。それは過去であるかも知れないし、未来なのかも知れない。無限の可能性を秘めたパラレルワールドを愛華は想像していた。
 愛華は、いろいろな発想を凝縮し、今頭の中で飽和状態を迎えようとしていた。
 手を振っている女王様は千春にしか見えなかったが、自分が空を見上げて安心しきっている気分を思い出した時、愛華は自分の中にある、
「心理の裏側」
 を見たような気がした。

                  (  完  )



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作品名:心理の裏側 作家名:森本晃次