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心理の裏側

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 その誰にも見えない先に、愛華は「暗黒星」の存在を感じた。
「愛華が暗黒星を意識しているから、愛華は千春を意識したのかも知れない」
 どちらにしても、暗黒星の意識の中での存在が、大きく左右しているのは間違いのないことであった。
 愛華が暗黒星というのを意識するのと、千春を意識するのとで、どちらが先だったのか自分でも分からない、まるで、
「タマゴが先か、ニワトリが先か」
 という発想のようである。
 千春を意識し始めると、彼女は愛華にしか見えない存在ではないかと思うようになった。それは彼女が石ころのような存在が健在であり、愛華以外の人には相変わらずの石ころにしか感じられないという意味である。
 それは愛華にとって都合のいいことなのだろうか?
 愛華は自分で都合のいいように考えてしまう癖があることを気にしていたが、千春に関して言えば、
「自分で納得できるのであれば、都合のいい解釈も悪いことではない」
 と思えるようになった。
 千春という女の子の性格が徐々に分かってきた。それは今まで分からなかったものが分かってくることへの喜びでもあるが、逆に、
「本当は触れることのできない神聖な彼女の性格」
 であってほしかったという思いもあり、複雑な心境であった。
 千春は、愛華と同じで、
「何もないところから新しいものを作るということに造詣が深い」
 という性格を持っていた。
 だが、思っていたよりも千春は人間臭いところがあり、愛華が見ていても不器用に感じられた。
 不器用だからこそ、憧れるという感覚が芽生えるのだろうが、千春という女の子に関しては、そんな普通の人であってほしくないという思いが深かったのも事実だ。
 ガッカリはしたが、それでも千春には愛華がまだ知らない力が秘められているように思え、簡単に頭から切り離すことのできない相手であることに違いはなかった。
 千春が石ころのような存在に見えたのは、どうやら親からの遺伝だったようだ。千春と仲良くなってから聞いた話だったのだが、
「私の母親は、スナックで働いているの。お父さんは失業しちゃったから仕方ないんだけど、お母さんは元々普通の主婦だったので、スナック勤めなんか初めてだったこともあって、なかなか馴染めなかったのよね」
 と言っていた。
「それで?」
「お母さんは、人との交わりがうまくいかないことをいつも悩んでいたんだけど、どうやら、それは生まれ持った性格のようで、それを見ていると、私も同じような性格なんだって気付いたわ」
 千春は自分がまわりに存在を消していることに気付いているようだった。
 最初に愛華は、彼女が無意識だと思っていたが、考えを改めたのはその時だった。
「もし、私が大人になって、スナックで働くようになることがあれば、あんな感じになるんでしょうね」
 と言ったが、
「そんなことはないと思うわよ。千春さんには、話題さえあれば、会話をすることは難しくないと思うわ。それに千春さんには話題が豊富な気がするしね」
 と愛華がいうと、
「そうかしら?」
「そうよ。千春さんは気付いていないかも知れないけど、千春さんと話をしていると、何か引き込まれるところがあるように感じるの。どこがと聞かれると指摘するのは難しいんだけど、私には感じるわ」
 千春から指摘されるのが怖くて、先手を打ったような話し方をしたが、その言葉に自分ではウソがないと思った愛華だった。
 千春と話ができるようになるまでには、思ったよりも時間が掛かった。会話を始めるにはタイミングというものがある。そのタイミングが千春との間で確立するには、少し時間が掛かるようだ。
 それは愛華に限ったことではなく、他の人であっても同じことのようだった。
 きっと会話のタイミングを合わせるには、アイコンタクトのようなものが必要であって、相手も何かを話したいという思いがなければ、アイコンタクトが成立しない。他の人であれば、会話の内容がどうであれ、相手が何かを話したいと思うと、アイコンタクトは成立する。
 しかし、千春の場合は、何かを話そうと思い、アイコンタクトを送るのだが、その内容が相手と合っていないと、アイコンタクトが成立しない。
 こちらがいくら千春に対してアイコンタクトを送っても、千春は敢えて視線を逸らしているようで、決して視線を合わすことはない。千春にとってその意識はあるのか、それとも無意識なのか分からない。聞いてみるのは怖い気がするし、理屈で考えようとしても、理屈で理解できることではないようだ。
 理屈で考えようとすると、堂々巡りに入り込んでしまう。それは迷路に迷い込んだような感覚で、
――あれ? ここはさっき通ったはずでは?
 と思うことが何度もある。
 堂々巡りを繰り返していることが分かると、迷い込んだ迷路が、紙一重で同じところをグルグルと回っているように思えるのだ。
 愛華は千春がスナックに勤めている姿を思い浮かべた。まだあどけなさの残る千春にスナック勤めをイメージすること、そして、愛華自身、テレビのドラマなどで見たことはあるとはいえ、当然行ったことのないスナックを思い浮かべることは困難に違いなかった。
 だが、その二つが結び付くと、思ったよりも想像ができるものだった。虚空の中の虚空の発想、マイナスとマイナスを掛け合わせると、プラスになるような感覚である。
 千春がカウンターの奥にいて、愛華が客としてカウンターに座っている。他に客は誰もおらず、スナックの人も誰もいない。スナックという未知の世界を想像する中で、二人だけの空間を作っていた。
 せわしなく手を動かしている千春の姿をボーっと見つめている愛華だったが、最初は何を話していいのか考えていた。本来であれば、客の愛華の方から話題を振るのではなく、店の人から話題を振ってくるのがスナックだと思っていたので、無言で通り過ぎる時間を苦痛に感じていた。
 すると、少しして千春が声を掛けてきた。愛華の想像の中では、二人は初対面のつもりでいたのだが、話しかけてきた千春の方は、旧知の仲を演出するかのような口ぶりだった。
「最近、来なかったけど、どうしてたの?」
 明らかに知っている口ぶりで、しかもその言葉から、愛華は自分がこの店の常連であることを悟った。
 それならそれで会話のしようもあった。実際に記憶から消えているのだから、正直に知らない素振りをしながら聴きだせばいいのだ。
 千春のことだから、愛華の様子が少々変でも、別に気にしないに違いない。学生時代から話をすることはあっても、いつも話が合っていたわけではない。むしろ、お互いに忘れていることがあったり、そのたびに、お互い新しい発見をしていたからだ。
「そうね、ちょっと忙しかったのよ。千春さんの方はどうだったの?」
 スナックというところは源氏名のようなものがあり、本名ではないと思ったが、敢えて千春さんという言い方をしたが、千春はそのことに何ら反応することはなかった。
――やはり、これは夢なんだわ――
 愛華は直観した。
 千春は都合の悪いことを感じた時は、一瞬であっても顔に出る方だ。そのために、仲良くなりかけた人がいても、そんな千春の顔を見た時、
――この人とはうまくいかないわ――
 と感じるのだろう。
作品名:心理の裏側 作家名:森本晃次