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心理の裏側

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 意識してしまうと、自分が石ころだと思い込んでしまうのか、思い込んでしまうと、石ころの雰囲気は身体にしみついてしまうものではないだろうか。ひょっとすると、元々潜在している石ころが顔を出すだけなのかも知れない。潜在している意識が表に出てきて、表面をコーティングすることで、外部からの影響だと表から見るとそれ以外には見えないのではないだろうか。
 愛華は千春を見ていると、いろいろな発想を抱くようになった。人を観察することなどほとんどないと思っていた愛華だが、たまに、いや、人によって観察していることがあった。
 それは無意識のうちのことなのだが、きっと意識する相手が千春だからだと思うと、納得できる気がした。
 千春は、愛華に対して他の人に対する目と違う視線を浴びせているような気がする。
 最初はその視線を、
「助けてほしい」
 と、何か救済を求めているかのように思えたが、そうでもないようだ。
 自分と同じタイプの人間として仲間意識を抱いた視線でもなかった。そもそも愛華も千春を意識してはいたが、まったく違うタイプの人としての意識があっての注視だったのだから、仲間意識という視線であれば、すぐに視線を逸らしたに違いない。
 愛華が千春を意識するのと、千春の視線を意識するのとどっちが先だったのだろう。
 愛華は自分の方が先だったと思っている。なぜなら自分が意識しない限り、もし最初に相手の視線を感じてしまうと、我に返ってしまって、自分の意識はあくまでも、
「相手に意識されたから」
 という意識が自分の意識の前提になると思ったからだ。
 千春が愛華を意識していると分かると、今まで、
「石ころのような存在」
 と思っていた千春に対して、
――少し違うような気がする――
 と思うようになった。
 千春は決して石ころではない。もし、石ころなのだとすれば、自分が彼女を意識するはずはないからだ。それは自分が先に千春を意識したのだとしても、千春が先に意識していたとしても、関係のないことだ。
 千春が自分を意識するなど、石ころのような存在の人間にはできないことだろう。石ころは、まわりに同じものがなくて、場違いであっても気づかれない存在であるのだから、自分からまわりを意識することはご法度のはずだ。
 それは、以前小説で読んだ、
「暗黒星」
 の発想から感じたことだ。
 暗黒星という発想は、ある天文学者が創造したものだという話であったが、それが架空の話なのかどうか分からない。もし架空の話だとしても、愛華にはインパクトが強く、ことあることに思い出すことであったのだ。
 暗黒星という発想として、
「星というのは、太陽のように自らで光を発するか、月や地球のように、光を発する星の恩恵を受けて、反射という形で光るものである」
 というのが、星の世界、天体の理論である。
 しかし、暗黒星というのは、自ら光を発することがないどころか、光を受けて反射するわけではなく、光を吸収するという星が存在するという発想である。
 そんな星が存在すれば、まわりにはその星の存在はまったく分からない。その星は、宇宙の中での危険な星として認識されるだろう、
 まわりに一切の存在を示さないのだから、すぐそばにいても分からない。いつぶつかるか分からない存在の星があるのだから、これ以上の恐怖はないというものだ。
 暗黒星というのは、存在を打ち消しているということが、そのまま危険を孕んでいるということになるのだが、そんな暗黒星と同じような人間が、世の中に存在したとしても、それが直接世の中に悪影響を及ぼすとは思えない。
 暗黒星というのは、あくまでも創造された架空のお話であるが、人間にも同じような存在の人がいるとすれば、考えてみれば恐ろしい。すぐそばにいながら、その存在感をまったく示さない。自分から内に籠るという意識があるのかどうか分からないが、存在自体を誰も意識していないから、実害はないのかも知れない。
 世の中には、訳が分からないままに不幸になる人もいる。唐突な事故に遭ってしまったり、突然の不幸に見舞われる人もいる。その理由が分からずに、世の中の理不尽さだけを感じるのだろうが、その原因が、人間版の暗黒星だったとすれば、理屈に合うのかどうか分からないが、考えを膨らませるだけの材料になるかも知れない。
 千春は、そんな暗黒星のような女性だと愛華は感じ始めていたのだが、暗黒星の発想を思い浮かべたとたん、千春に存在感を少しだけ感じられるようになった。
 そこに何かの力が働いているのは間違いないだろうが、千春の力なのだろうか?
 もし、千春の力だとしても、それは千春の意識の中にあることなのかどうか分からない。愛華としては、無意識であってほしいと思ったが。無意識であれば、それはそれで怖いものだという意識が強くなっていた。
 千春は確かに自分から何かを発信するということはない。人に話しかけることはもちろん、何を考えているのか分からないという印象が深いのだが、
――本当に何かを考えているんだろうか?
 と考えされられた。
 愛華は、最初、千春は何も考えていないと思っていた。視線も一点に定まっているわけではなく、結構きょろきょろしているからだ。
 きょろきょろしている雰囲気は、意識が定まっておらず、考えたとしても、まとまることはないだろうと思っていた。
 だが、きょろきょろはしているが、見つめた先にいつも何かを見つけているのではないかと思わせる瞬間もあり、
――そんなことはありえない――
 と、考えたことを一瞬にして否定する自分もいた。
 そのうちに千春の視線が定まってきた。虚空を見つめていて、知らない人が見れば、
「何を考えているか分からない」
 と思うだろう。
 しかし、今までの千春を知っている人は、
「今までの千春とは違う」
 と感じるはずだ。
 だが、元々千春は、人に自分の存在を悟らせないという性分だったのだから、人に千春の存在を考えさせた時点で、それまでの千春とは違うのだった。
 千春のことが意識から離れなくなったのを、愛華はすぐには分からなかった。それを意識するようになったのは、千春の視線が一点に定まってきたからだ。
 千春の視線が一点に定まってきたから、千春のことが意識から離れなくなったのか、それとも、意識が離れなくなったから、千春の視線が一点に定まってきたのか分からなかった。だが、どちらにしても、千春の視線に関しては、千春は無意識なのではないかと愛華に思わせた。そちらか分からないだけに、その二つがあまりにもかけ離れていては、理屈に合わないと考えたからで、二つをあまりかけ離れていないように考えようとすると、そこには、
「千春の意識が無意識である」
 という理屈をはめ込めるのが一番だと思ったのだ。
 愛華はそれからずっと千春を意識するようになった。
 それでも千春は愛華のことを意識するようにならなかった。あくまでも目立たない存在ではあるが、愛華にだけは目立たない存在ではありえない。
 愛華は千春を見ていると、
「彼女の感情は内に籠っているわけではなく、誰にも見えないところで発散されているのではないか」
 と感じるのだ。
作品名:心理の裏側 作家名:森本晃次