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心理の裏側

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 愛華の目はどうしても、目立ちたがり屋な女の子の方にばかり目が向いていた。それは思春期の最初の頃の特徴だったと思う。それまでは下の方ばかり見ていたような気がしたのに、その頃から急に上ばかりを気にするようになった。その意識は愛華にはなかったが、冷静に考えると、そういうことだったのだ。
 それがいいことなのか悪いことなのか分からなかったが、上ばかりを見ているということは、
「自分が憧れを持った証拠というべきではないだろうか?」
 と感じるようになった。
 憧れをそれまでも持ったことがなかったわけではなかった。だが、その憧れの対象は、思春期になるまでは、
「仮想の存在」
 という相手だった。
 ドラマやアニメの主人公だったり、登場人物に自分を投影して見ていたのだ。それが思春期になると、目の前にいる実在する人たちに視線の対象が変わってしまったのである。それがどういうことを意味するのか、愛華にはよく分からなかった。
――それまで意識していなかった現実を、意識するようになったということなのかしら?
 ということになるのかと考えていたが、それも少し違っているようだ。
 愛華には思春期という意識がハッキリと会った。
 それは自分を対象としている時期だというよりも、思春期というのが、自分もさることながら他人を余計に対象にしているものだという意識を強く持っていることでの意識だという思いであった。
 最近そのことを考えるようになったのは、従兄弟の隼人という男性の存在が大きいことも愛華には分かっている。クラスメイトの男性を極端に毛嫌いし、さらに同性である女生徒たちにも、あまり好意的に感じていなかった自分が意識するのは年上である隼人という大学生である。
――これって、恋なの?
 相手が従兄弟だという意識があるから余計に気になっているのではないかとも思っている。
 確かに相手が従兄弟であれば、恋愛をしても結婚をしても、法律的には何ら問題がないことは知っている。だが、それでも禁断の匂いを感じるのは、愛華が思春期という微妙な精神状態の時期を過ごしているからなのかも知れない。
「やっぱり私は背伸びしたいと思っているのかしら?」
 少なくともまわりはそう思うに違いない。
 愛華は、自分が本当はどんな気持ちになっているのか、よく分かっていなかったのだ。
 隼人とは最初の頃ほど連絡を取り合うことはなくなった。隼人が忙しくなったというのもあるが、愛華の方も、なかなか隼人を呼び出す口実もなかなかなくなっていたのだ。
 愛華が隼人を意識するようになると、隼人は少し愛華を避けるようになったように感じた。
――やはり、私の気持ちに気付いているのかしら?
 隼人は愛華から見ても大人である。
 他の大学生のようにちゃらちゃらした雰囲気に見えないのは、愛華の贔屓目なのかも知れないが、愛華に対して紳士的に振る舞ってくれているからなのかも知れない。隼人であれば、クラスメイトの女の子に、
「従兄弟のお兄さん」
 と紹介すれば、きっとモテるに違いないと思った。
 あまりモテられるというのも愛華にとっては面白くないだろう。相手が従兄弟だと割り切っていたとしても、隼人がもてていると、
――自分の方が、はるかによく知っている――
 という思いから、その日に出会っただけの友達など、相手にならないとは思うのだが、何しろ男女の仲というのは不可解なもの。
「気付けば付き合っていた」
 などという話を青天の霹靂として聞かされでもしたら、ショックは大きいに違いない。
 クラスメイトの中には、ウワサの絶えない女の子もいる。同じ中学だけでなく、他の中学にも彼女のファンがいて、付き合っているのは一人や二人ではない複数の相手ではないかという話だったりする。
 そんなウワサを彼女は、一切気にしている様子はない。
「言いたい人には言わせておけばいいのよ」
 とでも言いたげで、開き直っているというよりも、
「ウワサなんて有名税」
 とでも言わんばかりの態度に潔さすら感じるほどだ、
 その中でも一番ウワサの絶えない女の子を見ていると、
「実際には、誰かと付き合っているという雰囲気は感じられないんだけどな」
 と思えた。
 事実はよく分からないが、本当に誰かと付き合っているのであれば、もう少し秘密めいたところがあるように思えるが、彼女はいつでもオープンだ。つまりウソはないと言えるのではないだろうか。
 それでも、彼女に彼氏がいるのだとすれば、本命以外にも他に尽きっている人もいるような気がした。ウソがないというのは間違いではないが、一人だけを愛し続けているようには思えない。一人の決まった相手だけしかいないのであれば、ここまでオープンになれないと思う。敢えてオープンにすることで、まるで
「木を隠すには森の中」
 という感覚に近いものを感じさせる気がした。
 目先を逸らすというよりも、正面から見られることを意識して、その複数の視線を逸らすには、敢えてオープンにしておけばいいという考えは、潔いというよりも正面突破という、無鉄砲に見えるが、実は緻密な計算から作られていると思わせるに十分な考えなのかも知れない。
 もちろん、愛華にはそんなマネができるはずもない。今までに男性と付き合ったことはおろか、同年代の男性を、彼氏候補として意識したこともないからだ。しいて言えば、隼人を彼氏候補として感じたかも知れないが、
「年上への憧れ」
 という思いか、
「お兄さんなら、きっと私たちの年齢からもモテるに違いない」
 と感じたことだ。
 隼人の同年代である女子大生であれば、モテたとしても、それほど嫉妬することはないが、愛華と同年代の女の子が憧れるのを見るのは忍びない。それが恋心から来るものなのか、それとも憧れの気持ちから来ているものなのか、愛華には分かるすべを感じたわけではなかった。
 プログレのジャケットは、幻想的なものもあれば、妖艶に見えるものもあった。芸術的にもアートとして十分に単独で成立するもののように見えた。
 最初に気になったジャケットは、架空の動物のようなもので、よく見るとタンクになっていた。
「これは目立つので結構ジャケットを印象に購入する人も多いですね。このジャケットを見て、ジャンルに入り込む人もいるんじゃないかって僕は思っています」
 と、隼人は言った。
 隼人が愛華のために、いろいろなジャケットをどこかのサイトから拾ってきてくれたのか、ジャケットの画像集を作って見せてくれた。
 その中には幻想的なもの、妖艶なもの、怪奇に近いもの、さらには自分の頭脳では解析が難しいもの、つまりはどう表現していいのか分からないものと、分類できる。愛華は幻想的なものには今までも接することがあり、造詣を深めることはあったが、それ以外のものはほとんど接することがなかった。
 いや、厳密にいえば、自分から避けていたと言ってもいいだろう。あまり接することがなかったのも、無意識に避けていた証拠ではないかと考える愛華だった。
 だが、お兄さんは敢えてそのことを分かっているのか、愛華に対してわざわざジャケットの画像集を作ってくれた。
 隼人は愛華のことをよく分かっていて、
作品名:心理の裏側 作家名:森本晃次