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心理の裏側

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「分かるさ。相手が真剣に聞いてくれようとしているかどうかくらいわね。こっちも話に集中したいから相手が真剣に聞いてくれていないと思うと、本当に冷めてくるんだよ。そんな態度を相手に悟られたくないという思いが強いからな」
 と隼人は言った。
――その通りかも知れない――
 と愛華は思った。
 愛華は別に引きこもりというわけではないが、家に帰っても一人だということもあってか、学校でもまわりとあまり話をすることはなかった。それは、
――私は他の人とは違う――
 という意識が強いからで、それは性格的なものだけではなく、自分の置かれている立場からもそう感じられたからだ。
「隼人さんは、どんな音楽を聴くんですか?」
 愛華は急に話を変えた。
 元々音楽をやってみたいが、音楽に対しての知識があまりなかったことから、誰かに聞くか、それとも図書館などで、文献を調べるかのどちらかだろうと思っていた。ネットで調べるのが一番なのかも知れないが、ネットは最後の手段だと思っていた。
「僕は、この前までバンドをしていてね」
 と、その時初めて隼人がバンドをしていることを明かされた。
「そうだったんですか。格好いいじゃないですか」
 と、愛華はバンドをしている男性が皆格好いいという先入観を持っていたことで、思わず口走ってしまったが、隼人がその時、若干表情を歪め、何か苦虫を噛み潰したかのような表情になったことにビックリした。
「恰好いいか……」
 と、隼人はそれを聞いて、少し何かを回想しているかのように思えた。
「ええ、私はそう思っていますけど?」
 と、愛華は敢えて隼人が渋っている様子を気付かないふりをして聞いてみた。
「恰好いいからという理由でバンドを始める人って、結構いるんだよ。実は俺もそうでね。バンドをしているとモテるんじゃないかっていう理由で始めたんだけど、そんな理由で始めた人って、結構真面目な理由でバンドを始めた連中からはよく分かるようで、最初にそんな目で見られると、何かあった時、その思いが爆発するみたいなんだ。それまでうまくいっていたつもりになっていても、急に相手が別人のようになってしまう。まるで親が他人になってしまったかのような心境だよ」
 愛華はその話を聞いて何も言えなくなった。
 愛華も人とずっと距離を取ってきて、いまさら人との距離を縮めようという気はないが、最近になって、急に心細く感じられるようになった。
 それは、思春期を迎えて不安な気持ちが起こってしまったからなのかと感じたが、それよりも、
「何かやりたいことを見つけたい」
 と思った時、急にまわりに誰もいないことを思い知らされて、一人でいるといういまさらながらのことを思い知らされたようで、我に返ってしまったような感覚になっていた。
 だから、お兄さんに偶然であったが出会ったのは運命のような気がしたので、思わずそのまま別れるのが嫌な気がして、喫茶店に誘うことになったのだ。隼人もそのことを分かっているのか、快く引き受けてくれた。もっとも、二人とも同じ思いでいるということを隼人も分かっていることから、二人で喫茶店に来ることは必然だったのか、それともやはり隼人も運命を感じたのか、愛華にとっては実にありがたいことだった。
 愛華は隼人にバンドの話をこれ以上続ける意思はないと思い、最初から聞いてみたいことをぶつけてみることにした。
「私ね、今まで音楽に興味なかったんだけど、興味を持ちたいと思うの。それで、クラシックを聴いてみたいと思うんだけど、クラシックから少し進んだような音楽がないかって思うようになったの。たとえば、ロックやポップ、それにジャズなんかと調和したような音楽というのかな? 想像すると幻想的な音楽に感じられるんだけど、そんな音楽ってあるのかしら?」
 と聞いてみた。
 隼人はニコニコしながら。
「それならあるよ」
 と答えてくれた。
「本当?」
「ああ、かなり古い時代。そう、今から半世紀近くも前に流行った音楽なんだけど、あの時代としては一世を風靡したと僕は思っている。僕も少し嵌って聴いていた頃もあったので、CDとかは結構持っているよ」
「そうなんですね。どんな音楽なのかしら?」
「今、まさに愛華ちゃんが言ったようなジャンルだね。『プログレッシブロック』と言われるジャンルなんだけど、二十世紀の半ば、六十年代後半から、七十年代の前半にかけて流行った音楽だね」
「まさに半世紀前って感じですね」
「ああ、結構世界中で、流行ったんじゃないかな? ブームが去ってからは、当時のレコードは廃盤になったものも多いから、全世界というイメージはなかなかないかも知れないけどね」
「どんな音楽なんだろう?」
「ベースはクラシックかジャズという感じだね、そこにロックのイメージや幻想音楽が結び付いて、いわゆる『前衛音楽』とも言われていたな。当時とすれば流行の最先端だったんじゃないかって思うんだ」
「そうなんですね」
「ああ、音楽としても、クラシックがベースだったりするので、組曲になっていたりして、当時のレコードの片面全部が一曲だったりする曲もあるんだ。歌詞がついている曲もあれば、ない曲もある。組曲なんかは、ずっと途中まで歌詞のないインストロメンタルな曲だと思わせておいて、急に声が入ったりする。それがまた幻想的なイメージを駆り立てるような曲もあって、当時はやはり前衛というイメージが強かったんだろうね」
 愛華はその話を聞いて、目からうろこが落ちたような気がした。
「私、今まで音楽って好きじゃなかったから、何も聞いてこなかったのね。でも、今は何か作曲をしてみたいって思うようになったんだけど、今の話のようなクラシック系の幻想音楽に挑戦してみたいの」
 というと、
「大それた感覚だね」
 と言って、隼人は笑ったが、すぐに、
「それは素晴らしいと思うよ。今の時代は、パソコンなどでいろいろな音楽を作ることができる。その発想は十分にありだって思うな」
 すぐに他人事であれば、冷めた感覚になると思っていた隼人がこんなにも興奮するというのは、愛華も想定外だった。
――やっぱり、話してみてよかったわ――え
 と感じたが。それが、今まで何かをやってみたいと感じたことのなかった愛華が初めて感じたやってみたいことに対しての思いだった。
 愛華は、それからプログレッシブロックのCDを探してみたが、なかなか見つからなかった、隼人の持っているという秘蔵のCDを借りてきて聞いてみたが、自分の理想とする音楽であるということだけは分かった。
 やはりクラシックを基調とした音楽は愛華の想像した通りのもので、今の時代にはない新鮮さを与えてくれた。
 音楽はクラシックなのでイメージとしては洋風に違いないのに、愛華がイメージしたこととしては、なぜか小学生の頃に佇んでいた夕方の公園のイメージだった。
 今思い出す公園は、モノクロのイメージだった。たまに色がついているとしても、橙色がすべての世界を覆いつくしているというイメージで、それなのに、境目はしっかりと分かっている。
――どうしてなんだろう?
 風景画に興味を持ち始めていた時だっただけに、余計に色について敏感になっているようだった。
 空の色まで橙色だった。
作品名:心理の裏側 作家名:森本晃次