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心理の裏側

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 愛華が人の顔を覚えられない理由が一つではないと思うようになったのは、デジャブについて考えるようになってからのことだった。デジャブと夢を結び付けて考えた時、デジャブというものが、
「何かの辻褄合わせではないか」
 と思うようになったことがきっかけだったような気がする。
 人に言われたことだけでは信用しないというのは、自分の信念が一度見たものでなければ納得しないというところから来ている。デジャブのように、
「初めて見るはずなのに、どこかで見た気がする」
 という意識は、納得できるものではないだろう。
 しかし実際に、愛華の中でデジャブだと思えるような状況を感じたことがあった。納得はいかないが、意識として認めざる負えないことである。それをどのように理解すればいいのか、思わず投げやりになってしまいそうになるのを、一度立ち止まって考えてみた。そこで出た結論が、
「何かの辻褄合わせ」
 ということであった。
 記憶の中には確かにあるが、その具体的なシチュエーションになると、記憶の中にはない。
 つまり、見たという事実と、シチュエーションが切り離させる何かの理由があるはずだと思う。そこで見たという事実の方なのか、覚えていないシチュエーションの方なのか、愛華はそのどちらかが辻褄合わせによって引き起こされた意識だと思うようになった。
 その辻褄合わせは、その時々によって違っているのかも知れない。
 ピエロを初めて目の前で見たはずなのに、どこかで同じ感覚を味わったことがあると、愛華は感じたが、その相手がピエロだったと言い切っているわけではない。
「同じ感覚」
 と言っているだけで、その印象が強いから、どうしても意識はピエロの存在に行き着いてしまう。
 しかもピエロという強烈な特徴を持っている相手なので、その思いもヒトシオに違いない。
 ピエロの笑顔が微妙に違っていたのは、一瞬にして愛華の意識が今の自分から小学生に戻ったからだ。最初はその意識がなかったが、小学生の頃に戻ったと思うと、その公園にいることが間違いではないことに気付く。
――あれ? でも、私は最初から公園にいて、そこに違和感はなかったはずなのに――
 という矛盾を感じた。
 その矛盾が、愛華に今見ているものが夢だという意識を植え付けたのかも知れない。
 夢の続きを見ていることに違和感を感じないのは、自分の中での辻褄が合っているからであり、その辻褄を合わせたのは、
「時系列を無視して、自分の意識が過去に遡ったからではないか」
 と思うようになった。
 この理屈もよく考えれば、矛盾を孕んでいるような気がするのだが、自分を納得させられるという意味では、少々の矛盾は問題がないような気がした。
 デジャブというのも辻褄合わせだと考えれば、これほどの矛盾はないだろう。それでも納得できるのは、時系列を無視することができる夢という世界が、現実世界と同じ空間にはいるが、次元が違うという異次元世界への誘いに似ていた。
 ピエロが奏でる音楽は、愛華がやってみたい音楽とは違っていた。できることならクラシックのような壮大な音楽を作ってみたいという思いがあった。今世に出回っている音楽は、楽曲と言われるが、そのほとんどは数分で終わってしまう、歌詞の就いた音楽、愛華が目指しているのは、数十分の組曲になっているもので、別にオーケストラのような大げさなものでなくても、一つのバンドでできるくらいでいいと思っている。
 ピエロを見て、怖いと感じながらも、その恐ろしさがどこから来るものなのか、想像がつかなかったことで、怖いものではなく、気持ちの悪いものだという印象を持った。
 それは音楽においても同じことで、何か不気味に感じさせる音楽を奏でたいと思うようになった。ただ、ベースは美しさや現象的なイメージがあってこそ、生まれる不気味さを奏でたいと思うようになった。
 愛華はそんなに音楽もジャンルを知ることはなかった。自分が音楽をやってみたいという願望を、誰にも知られたくないという印象があったからだ。
 愛華には従兄弟のお兄さんがいた。その人は普段からあまり人と接することもなく、一人でいるのが好きなタイプの人で、引きこもったという経験はないが、まわりの人から、
「何を考えているのか分からない」
 と評されていた。
 自分の両親からも、どう接していいのか分からないと思われているようで、愛華の家に来ては、愚痴をこぼして帰っていた。
 愛華が中学二年生になる頃には、共稼ぎではあったが、毎日仕事ということもなく、週に二回ほど仕事に出るほどでよかった。
 さすがに最初は今までいなかった母親が家にいることで戸惑いもあった。母親の方も、どう接していいのか分からなかったようだが、余計な詮索をお互いにしないことで、いつの間にか距離も縮まっていたようだ。会話も少しずつするようになっていて、今では普通の親子に戻っていた。
 家に客が来ることはほとんどなかったが、その代わり、叔母さんがよく愚痴をこぼすように来るようになっていた。
「あちらも大変よね」
 と、叔母さんが帰った後は、母親がそういって呟いていたが、あくまでも他人事であることは分かっていた。
 愛華もそのつもりで聞いていたので、それほど深くは聞いていなかった。従兄弟のお兄さんに会ったのはそれから少ししてのことで、叔母さんからの話を先入観として聞いていたが、他人事のように感じていたので、それほどギャップはなかった。
 それよりも愛華自身も母親から離れて孤独な時期があったので、従兄弟の気持ちは分かる気がした。従兄弟と話すようになったのは本当に偶然で、コンビニで出会ったのが最初のきっかけだった。
 お兄さんの名前は隼人さんという。
「隼人さんじゃないですか?」
 というと、
「ああ、愛華ちゃんか、久しぶりだね」
 その顔は引きこもっているようにはどうしても思えないほどニコニコしていて、これなら会話が弾むと思った愛華は、そのまま喫茶店に誘った。
 隼人もちょうど待ち合わせがあったわけではないというので、気軽に付き合ったが、お互いに人と話すのが久しぶりだったらしく、新鮮さのおかげで意気投合したところもあったようだ。
 隼人は大学生で、その時は二年生だった。
「隼人さんは彼女とかいないの?」
 と聞くと、
「前はいたんだけどね。半年前に別れちゃって」
 と正直に答えてくれた。
 相手が愛華だからだろうと最初に思ったが。隼人と話しているうちに、彼が根っからの正直者だということに気付くと、却って話すのが楽しくなってきた。お互いに普通に会話ができる相手を探していたのだろう。自分のまわりに自分がしたい会話ができる相手がいないと思っていた証拠でもあった。
 隼人は、最近までバンドを組んでいたということを話してくれた。
「叔母さんは知っているの?」
「いや、知らないと思う。俺は母親とあまり話すことはないので、余計なことは知らないはずだよ」
「どうして、話さないの?」
「どうしてなんだろうね。多分、話をしても分かってくれないからなんじゃないかな?」
「そんなこと分からないじゃない」
 と愛華がいうと、
作品名:心理の裏側 作家名:森本晃次