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短編集70(過去作品)

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 おじさんに対しての思いが一過性であると感じた時、私はおじさんへの気持ちは「好きだ」というよりも「憧れだ」という方が強いことに気が付いた。しかもその二つが同居するものではないと思うと、おじさんを好きだという気持ちが次第にしぼんでくるのを感じたのも事実だった。
 一過性であると気付いたことを自分の中で理解できると、理屈も分かってくる。そして、これが初恋だと思った。初恋は勘違いであってもいいと思っている。本当は恋ではなく、憧れだと思えば、初恋が淡いもので、成就しないわけも分かる気がするからだった。
 おじさんが転勤していってからしばらくすると、連絡が疎通になってきた。どちらから縁遠くなってしまったのか分からないが、お互いに気を遣う性格が災いして、どちらかが縁遠くなってしまった時点で、
――あまり連絡しちゃいけないかも知れないな――
 と思ったに違いない。私はそんな風に感じた覚えもあった。ひょっとすると結婚を考えているような人ができたのなら、あまり連絡をこちらから取ってはいけないと思っても当然である。
 おじさんの方も私に彼氏でもできたのだと思うと、きっと同じような気持ちになるのではないだろうか。もし私がおじさんの立場でも同じである。私に彼氏ができたとしても、遠慮することはないと自分では思っているくせに、おじさんに彼女ができた場合は邪魔になると思うのは不思議な感覚である。
 おじさんと連絡をほとんど取らなくなってから彼氏ができるのだから不思議なものだ。おじさんが連絡くれなくなった寂しさが表に出てしまったことで、男性の私に対しての見方が少し変わってきたのかも知れない。父親に育てられたということで、少し気が強い女性だと思われていたのだろう。おじさんの存在も気を強くするきっかけになったに違いない。
 おじさんがいなくなったことで私の中にある男性を恋しがっているという気持ちに火が付いたのかも知れない。本当はおじさんが付けた火なのだが、私がそのことに気付かなかったことで、おじさんと縁遠くなってしまった。もしおじさんには分かっていて、私の勘違いだけであれば、おじさんに悪いことをした。おじさんが私に好意を抱いてくれているのではないかという思いをずっと持ち続けたからだ。
――おじさんのことは忘れよう――
 彼氏ができたことで、いつまでもおじさんのことを想っていてはいけない。おじさんにも悪いし、自分の中で整理できないのが一番よくない。彼氏にだっていいことではないだろう。
 彼氏は私がスナックでアルバイトすることを許してくれた寛大な人だ。許してくれるだろうという思いがあるからこそ、話をしたのだ。私が人を見る目が養えたのも、おじさんと一緒にいることで自然と身に着いたことではないかと思うようになっていた。
 おじさんとの連絡が途絶えてからは、私のまわりの男性は彼氏が中心になった。おじさんに対してのものと彼氏に対してのものとでは、男性としての見方がだいぶ違ったのも事実である。
 彼氏に対しては、誠実で素直なところが紳士的な雰囲気を感じさせた。おじさんは、誠実で素直というよりも、もう少し力強さと頼りがいがあった。どちらが男らしいかと言われれば間がいなくおじさんだというだろう。
 ただ、どちらに大人の男性を感じるかというと、やはりおじさんだった。紳士的というには少し離れているような感じがするが、気を遣いながらも相手にそれを悟らせないようにするところが紳士的なのだろう。ひょっとして荒削りで力強さを感じさせるのは、本当は素直で誠実なところがあるのに、表に出さないようにしようという気持ちの表れなのかも知れない、だとすれば、おじさんは無意識に続けているように思えてならないのだ。
「しおりちゃんの弟思いなところは、とても素敵だと思うよ。俺にはちょっと真似ができないと思うんだ」
「それはおじさんが男だからそう思うのかも知れないですね。私はあまり意識していないのは、女性だからだって思うんですよ。逆にこれが男性であれば、意識しているところが見えると、却ってわざとらしさのようなものが見えてくるんじゃないかしら」
「しおりちゃんの発想は、つくづくおじさんを感心させてくれるね。しおりちゃんのお話を聞いていると、時々、目からうろこが落ちたような気がしてくるんよ」
 と言っていた。
 こんな話はおじさんとしかできない。やはり年上で頼りがいがあると思っているからだろうか。同い年の彼氏では物足りなく感じる。それは女性と男性の違いもあるからなのだろう。
 男性よりも女性の方が発育が早いという。それは身体でも言えることだが、私は精神的なものが大きいように思う。
 小学生の頃は肉体では男の子よりも女の子の方が発達していると思ったが、精神的には男の子にはかなわないと思っていた。それが逆転したのはいつくらいからだっただろう。記憶を思い起こすと高校生になった頃からではないだろうか。実際にはもっと前から兆候はあったのだろうが、目に見えて分かってきたのは高校生になってからだった。
 男の子が異性に興味を持ち始めるのは、女の子よりも遅いのではないかと思えたのも一つだった。中学に入る頃には男性を意識し始めた。それはどうしても肉体的に初潮を迎え、身体が女の子からオンナに変わっていったからであるのは間違いのないことである。
 おじさんへの甘い気持ちはおじさんのことを忘れたとしても残っていることだろう。また、おじさんのことを忘れられない場合に、甘い気持ちを捨ててしまおうと思っても、できないことであろう。
 おじさんという存在と、甘い気持ちとはセットになっていて切っても切り離せないものであるに違いない。おじさんが転勤で近くにいなくなった瞬間から、私にとっておじさんは、初恋の思い出として心の中に残っているのだ。それを現実のものとして混同してしまうと先には進めないし、彼氏に対しても悪い。そのことをしっかり理解しておくことが大切だった。
 スナックでアルバイトをしていると、確かにいろいろな男性が現れるが。私の目にはしょせん、スナックという場所を「遊び場」として考えていて、真剣な恋愛感情が生まれることなどないという思いがあった。それは普段から頭の中で計算ばかりしていることで、冷静に見ているからではないかと思うのだ。冷めた目で男性を見ると、相手にも分かってしまうのではないかという危惧はあったが、幸いなことにアルバイトだという意識もあって、さほど気にすることではないと思っている。
 ママさんも、
「一生懸命にやってくれている姿が見えるから、安心できるわ」
 と言ってくれている、
 さらに冷静な目で見ていることで、当初の目的だった。小説のネタになるようなことも少しだけであったが、話を聞くこともできたような気がする。スナックでのアルバイトは、順調に進んでいった。
 スナックで働いている時の私の頭の中からは、おじさんのことも彼氏のことも消えている。この切り替えが私のいいところなのかも知れないと思っているが、余計なことはなるべく考えない方がいいというのも、スナックでアルバイトをするようになって気付いたことだ。
作品名:短編集70(過去作品) 作家名:森本晃次