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短編集70(過去作品)

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――もし、それが作為的に二人によって作られたものだとすれば?
 百合子は、課長への見方を少し変えなければいけないと思った。
 二人の雰囲気は先輩が失恋した時から始まっているようだった。元々先輩と課長の間にお互い避けている様子を感じたのが、その時からだったのだ。
――課長が、先輩の失恋に付け込んだ?
 もし、これが他の人であれば、先輩が課長に近づいたという可能性も否定できないと思うのだろうが、百合子にはそうは思えなかった。あくまでも課長の毒牙に先輩が引っかかったという見方しかできなかったのだ。
 だが、それが間違った考えであると気付くのも、そう遠くない将来だった。失恋した時に女性が癒しを求めるのは課長のような男性であるということに、百合子は気付くことになるのだ。それも自分から気付いたわけではなく、人から教えられた。しかもそれを教える相手がまったくの想定外の相手であることを、その時の百合子は知る由もない。
 江崎課長という男性に対し、急にエロスなイメージが浮かんできてしまった自分を百合子は恥じた。
――なんてことを――
 それが自分のオンナであることの性なのだとまだまだ理解できていなかったのだ。だが、それもいずれは思い知らされることになる。
 自分が望む望まないは別にして、百合子の考えとは違うところで動き始めた時間が、次第に百合子に近づいてくることをまだ知らぬ百合子だった……。

 百合とユリ
  逆らいたるは及ばずの
   身体に刻む嗅ぐわいほのかに

 男性社員に絶大な人気がある真里菜は、いつも誰かに誘われていた。しかし、二人きりでどこかに行くということはない。女性は自分が一人でも、男性は複数だった。
――普通なら逆じゃないのかしら?
 真里菜の気が知れない百合子は、そう思った。だが、男性の立場に立ってみれば、一番女性としては安全なのかも知れない。相手が集団暴行やアブノーマルなプレイを好み、それなりに覚悟していれば別だが、普通の男性であれば、独占欲が強いはずだ。男性が複数であれば、危ういことになることはないだろうというのが真里菜の考えではないだろうか。
 遊びに行くとしてもカラオケや居酒屋、アルコールは入るものの。
「私って、酒ぐせ悪いから」
 と言っていたが、確かに会社での飲み会も、結構飲んでは、ハイテンションになってしまい、挙句の果てに絡み酒だった。誰彼ともなく絡んでいく姿を何度となく見たものだ。そんな姿を見れば、たいていの男性は引くであろう。
 ただ、上司やお局様と言われるベテラン女性社員、さらには百合子には絶対に絡んでこない。絡む価値がないと分かっているのか、それとも、泥酔していながらもしたたかに計算をしているのだろうか。
 百合子の気持ちの中で、次第に真里菜が、
――したたかなのではないだろうか?
 と思うようになっていたが、翌日になって、前の日に何事もなかったように、いつもの「小悪魔的笑顔」を見せられると、
――やっぱり私の思い過ごしなのかも知れないわね――
 と、疑惑は否定される。
 コロッと騙されているのかも知れないが、騙されるのもいいかも知れないと思う。そう思うことで、真里菜とは、会社だけの関係なのだという思いを抱き続けることができるのだと思うからだった。騙されるということが、決して悪いことばかりではないという思いをその時に初めて感じたのだった。
 真里菜のことを気にし始めた自分に気付いてハッとした百合子。真里菜にそのことを気付かれないようにしないといけない。だが、真里菜はそこまで甘くはなかった。すでに真里菜は百合子が自分のことを気にし始める前から予感があったのだ。
 しかも、分かっていても、自分から接近しようとしない。逆に適度な距離を分かっていて、少し離れたくらいだ。そして百合子が意識したと思った頃合いを見計らって、百合子に接近を試みた。
 だが、真里菜からすれば少し誤算もあった。思ったよりも百合子のガードは高かった。計算からいけば、ここまでくれば、百合子がコロッと自分に靡くと思っていたようだ、だが、そうは問屋が卸さない。たまに自分の計算が狂うことは覚悟している真里菜ではあったが、百合子に関しては想定外だった。
 それも、百合子が自分の殻に閉じ籠っているからだというよりも、臆病だからだと真里菜には分かった。
――だから厄介なのよね――
 自分の殻に閉じ籠っている人のからをこじ開けるよりも、臆病な人の気持ちを開く方が、断然難しいことを真里菜は知っていたのだ、
 臆病な人が殻に閉じ籠る可能性はかなり高いが、殻に閉じ籠っている人が臆病であるという可能性はそれほど高いものではない。殻に閉じ籠っていて、臆病ではない人から見れば、臆病な人は違う人種に見えるからではないだろうか。
 百合子はその両者を抱えている。最初に攻略しやすい殻をぶち破ろうとしても、奥にある臆病さが百合子を難攻不落にする。百合子にとっては願ってもないことなのかも知れないが、この性格は決していいものではないということを自分でも分かっている。
――どんなに難攻不落でも、私がこじ開けてみせるわ――
 という覚悟にも似た思いを真里菜が抱いているなど、百合子には想像もつかなかった。真里菜はその性格上、直球勝負で挑んでくるはずだという思いが強かったからである。だからこそ、搦め手から攻められると、防御のしようがない。百合子はそのことを知らなかったのだ。
 真里菜とすれば、百合子になついているのは、正攻法だと思っている。百合子がそう思っていると分かっているからで、ただしつこくしても百合子が決して嫌がらないことは分かっていた。そこが、真里菜が感じる百合子の他の人との違いであって、一番気になっているところなのかも知れない。
――私には絶対にないことだから――
 という思いが強いのだった。
 自分にないものを持っている人がいると、興味をそそられるのは人間としての本能ではないだろうか。百合子も類に漏れず、真里菜に興味をそそられていた。ただ、それは興味を注がれたというだけのことで、それ以上でもそれ以下でもない。ただ、油断しているとその思いに真里菜が付け込んでくるかも知れないと思うと、したたかな相手に余計な気を遣わなければいけない自分が情けなくなるのだった。
――真里菜は普段、会社を離れてからどんな人たちと付き合っているのだろう? 彼氏がいるとすればどんな人? いないなら、きっとたくさんのボーイフレンドがいるに違いない。そのほとんどとは、間違いなく男女の関係になっているはず……
 などと、いろいろな発想が頭を巡るのであった。
 では、逆に真里菜は百合子のことをどう思っているのだろう?
 誰とも付き合わない、孤独な女だと思っているのであれば、百合子としては幸いである。だが、どうやらそうではないようだ、真里菜の中には百合子に対しての想いがあり、それを隠すことなく表に出す。それが真里菜の性格であり、百合子の興味をそそられる部分だというのは、実に皮肉なことであった。
――いやだわ、考えれば考えるほど、自分がストーカーになっていく気分になっちゃう――
作品名:短編集70(過去作品) 作家名:森本晃次