小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

電子音の魔力

INDEX|9ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

 郁美は瀬里奈と歴史の話もしてくれる。元々歴史は好きではなかった郁美だったが、瀬里奈の話に興味を持ってくれたのか、話をしてみると瀬里奈が考えていなかったような話がポンポン出てくることで、瀬里奈にも目からうろこが落ちたような気がした。
「やっぱり、人と話をしないと思いつかないことも多いわね」
 と瀬里奈がいうと、
「それはきっと、あなたの顔が相手に答えを求めているところから、相手が考えるからなんじゃないかって思うんですよ」
「郁美もそうだったの?」
「ええ、そうでしたよ。でも悪い意味なんかじゃなくって、私も普段感じないような発想を思い浮かべられることは嬉しいことです」
 瀬里奈の本心だった。
 瀬里奈が郁美と奇妙な話をし始めたのは、歴史の話が飽和状態になりかかった時だった。瀬里奈の方は怖い話に興味があるようで、瀬里奈の方はオカルトっぽい話は得意でホラーは苦手だったのだが、そんな瀬里奈に話を合わせてくれたようだった。
 しかし、郁美と話をしていると、怖いと思っていたホラーの話も、違った目線から見ることができるようで、さほど怖いとは思えなくなった。
「私は、妖怪やお化け関係でなければ、怖い話でも大丈夫な気がするの」
 と瀬里奈がいうと、
「それは、瀬里奈が怖がっているのは、怖い話が怖いから、怖い話をしたくないんじゃないかなって思うの」
「どういうこと?」
「要するに、本当に怖いと思っていないということなんじゃないかって思うの。本当に怖いと思っているんだったら、お化けや妖怪にこだわることはないって感じたんだけど、それって私だけなのかしら?」
 という郁美に対して、
「私は怖い話をしたくないということをいうと、誰もしてこなくなるので、それ以上を感じたことがないから、よく分からないの。確かに今郁美に言われたように中途半端な怖さを想像したことがなかったような気がするわ」
 というと、
「やっぱり、瀬里奈は素直で真正面を見る性格なのかも知れないわね」
 その言葉を聞いた時、素直に喜んでいいのか迷ったが、相手が郁美であれば、彼女の言葉に少々の皮肉が含まれているとしても、他意はないと思えた。
 郁美から言われた、
「素直な真正面を見る」
 と言われた時、感じた思いは、
「鏡を前後に置いた時の発想」
 であった。
 真正面だけを素直に見ているつもりだが、瞼に写っているものが何なのか、瀬里奈は考えた。
――どんどん小さくなっていく私なのかしら?
 と、話をしていても、発想は結局自分の中でいつも感じている発想に行きつくのだった。
「私ね。以前、瀬里奈と似た人をどこかで見たことがあったような気がするのよ」
 と、ある時郁美に言われてビックリした。
 相手は郁美というわけではなかったが、瀬里奈にも以前に似たような経験をしたことがあった。
「それはいつ頃のことだったの?」
「それがハッキリと思い出せないんだけど、今から思えば、瀬里奈と別々の高校になって、しばらく会っていなかった頃だったように思うの。でも私の意識としてはもっと昔のことだったような気がするのね」
 と郁美は言った。
「でも、そのことを今思い出すというのは、それも不思議なことよね?」
「ええ、あれから瀬里奈と話す機会は確かに何度もあったので、その時に言えばよかったんだって今思うんだけど、瀬里奈と一緒にいると、その話をしようと思っていたことを忘れていたのかも知れないわね」
「ということは、私と一緒にいない時には意識していて、私と一緒にいると、忘れてしまうということになるのかしら?」
「一概にそうだって言えないと思うんだけど、ある程度そんな雰囲気なのかも知れないわね」
「私に似た人って、顔が似ていたということなの?」
「そうじゃないと思うの。実際にはその顔をハッキリと覚えているわけではないんだけど、似ていたという印象はないの。だから、似ていると感じたとすれば、雰囲気だったのかも知れないわ」
「私は人の顔を覚えるのが苦手なので、覚えていないというのは分かる気がするわ。私の場合は覚えていないといけないと思えば思うほど、覚えられないのよ」
 と瀬里奈は言った。
「私は、覚えておかなければいけないという意識を持ったことはないのよ。忘れてしまいようだっていう意識もなかったの。瀬里奈の場合は覚えておかなければいけないと思い込みすぎるんじゃないの?」
 と郁美に言われたが、
「そうかも知れないんだけど、覚えないといけないと思わなかったとしても、きっと覚えていないと思うわ」
 と瀬里奈は答えた。
「瀬里奈の場合は、誰かと間違えたら恥ずかしいという思いがあるのかも知れないわね」
 と言われて、絵里奈はビックリした。
「ええ、その通りなの。実際に子供の頃、相手は大人の人だったんだけど、自分では覚えていると思っていた相手を、まったく別人と勘違いしたことがあったのよ。その人に声を掛けて、相手がキョトンとした表情を見た時、初めて自分のまったく見覚えのない人だって気付いたのよ。言われて初めて気づいたということに恥ずかしさを感じたんじゃないかしら」
 と言ったが、
「それより、そのものズバリ、間違えたことに恥ずかしいと感じたんだって私は思うわ」
 と郁美に言われて、瀬里奈は少しムッとした気分になった。
――人にわざわざ言われるまでもないわ――
 と感じたからである。
 しかし、分かっていることとはいえ、面と向かって指摘されると、自分で考えていたよりも、さらに恥辱を感じるもので、顔が真っ赤になっているのを感じた。
――分かっていたはずなのに――
 と思うが、そう思った自分が相手の言葉に振り回せれテイルと感じると、よけいに腹が立ってくるのであった。
 歯にモノを着せぬ言い方をする郁美のことを、
――自分に近いところがある――
 と思って、親近感を感じていたはずなのに、なぜいまさら腹を立てる必要があるのか、瀬里奈は自分にいら立っていた。腹を立てたのは郁美に対してではなく、自分に対してだったのだ。
 そのものズバリを指摘されることがこれほどきついことだとは思っていなかった瀬里奈だったが、だからと言って、相手を忖度し、言葉を濁すようなことはしたいと思わなかった。
――後で分かったら、さらに怒りが増してくるような気がする――
 と感じているからだった。
 やはり、直接的に言われることは覚悟のいることであるが、それだけに、言われる相手が信頼のおける相手でなければいけない。瀬里奈が友達として選別するとすれば、そんな相手でなければいけないと思っている。
「お互いに思ったことが言える相手」
 それが、瀬里奈の友達に対しての条件だったのだ。
 だから、瀬里奈は友達が少なかった。小学生の頃は、ほとんど友達がいなかった。小学生の頃は、中学に入ってからよりも、たくさんの人が友達になろうとして近寄ってくれた。もちろん相手がどんな人なのか分からないこともあったからなのだろうが、瀬里奈と友達になろうという奇特な人は、そんなにいなかった。
作品名:電子音の魔力 作家名:森本晃次