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電子音の魔力

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 そのヤバいという思いが却って身体を緊張させる。だが、ヤバいと思わないと、いきなり襲ってくる金縛りに果たして耐えることができるのか、そう思うと、予感めいた前兆というのは、
「無用の長物」
 とは、種類の違うものに違いない。
 金縛りとは別に、足が攣るという現象も増えてきていた。足が攣ると呼吸困難に陥り、声を出すことすらできなくなる。これも前兆のようなものがあり、その予感は金縛りによる予感なのかどうか、すぐには分からない。
 ただ、瀬里奈がエロさを意識するようになってから、金縛りが多くなったのは意識できた。足が攣るのはまた別の要素があるような気がしていたのだが、SMを意識するようになったからではないかと思うようにもなった。
 SMの世界はなるべく触れたくないと思っているくせに、どうしても意識してしまう。自分が入り込むということはないと思っているが、本屋ではビニールが掛かっているので見ることはできないが、図書館に行けば見ることができるのではと思い、休みの日に図書館に出かけた。
 図書館という特殊な場所に立ち寄るのは、嫌いではなかった。
 図書館というのは空気が薄く、耳鳴りを覚えてしまうというイメージが強く、匂いも独特で、体調の悪い時なら、一発で気持ち悪くなってしまうのではないかと思っていた。
 しかし、図書館の独特な雰囲気は病みつきになってしまう。匂いも独特なのだが、別に嫌いな匂いではない。最初、鼻を突く臭いだと思うのだが、すぐに慣れてしまって、襲ってくる耳鳴りに共鳴したのか、それとも嫌なことがうまく作用してお互いを打ち消したのか、嫌な感じが半減しているようだった。
 図書館にいると、別世界の雰囲気を感じる。本に囲まれた空間は、圧迫感を感じる。さらに本棚というのは、これでもかというほど高さがあり、迫ってくる圧迫感を感じるのは、そのせいであろう。
「館内ではお静かに」
 という貼り紙も目にするが、誰も言葉を発しようとしない雰囲気があった。
 だが、声を発しないだけに、自然発生する音が気になってしまう。その音は次第に大きさを感じるようになるのだが、きっと気にしないようにしようと思えば、意識しないで済むのではないかと感じるのだが、果たしてそうだろうか?
「心頭滅却すれば火もまた涼し」
 という言葉があるが、まさしくそうなのかも知れないと思う。
 意識しないで済む人は、それなりに音に対して思い入れのある人ではにないかと思うのだ。
「人というのは、意識しないようにしようとすると、必要以上に意識してしまって、気になると止まらなくなってしまう」
 と瀬里奈は思うのだった。
 瀬里奈が図書館に行く時は、あまり人がいない日が多かった。休みの日に、朝から一番で行くことが多いので、昼前くらいまではほとんど人がいなかった。
 もちろん、学習室に行けばたくさんいるのだから、人が少ないというのは語弊があるが、学習室に人が多いだけに、読書室に人が少ないのは、余計に人が少ないと思わせるのだった。
 本棚に圧迫されながら本を物色していると、時間を忘れる気がしてきた。気が付けば耳鳴りも微妙な匂いも感じなくなっていて、見たい本を見つけて棚から出した時にツンと鼻を突く臭いは、最初に感じる匂いとは微妙に違っていた。
 閲覧席に本を持っていく時に感じる、ずっしりとした重たさは、
「これぞ図書館」
 という、この場所の醍醐味を感じた。
 本を開くといきなり飛び込んできた画像には、一瞬度肝を抜かれた気がした。
「気がした」
 というのは、正直にいうと、目に飛び込んできた画像を、すぐには認識できていなかったからだ。
 真っ暗な画像なので、すぐに画像がどんなシチュエーションなのか、すぐに理解できる人は珍しいだろう。瀬里奈も画像をすぐに理解できなかったのだが、どす黒い雰囲気自体に気持ち悪さを感じたというのが、素直な感想だった。
 目が慣れてくると、少しは画像のシチュエーションを感じられるような気がしたが、思ったよりも時間が掛かり、少しイライラしてくるくらいだった。
 絵の中に決して明るさは感じられなかったが、瀬里奈はそれでもどこかにあるかも知れないと思う明るさを探していた。そう思って探していると見つけることができるのか、中心部分の奥の方に明るさを感じた。
 錯覚なのかも知れないが、明るさを感じると、その明るさの正体が分かってきた気がした。その明かりは瞳の明るさで、こちらをじっと見つめている。
――気持ち悪い――
 と感じたが、そのうちに自分が勘違いしていることに気が付いた。
 目の前に光っている瞳は人間の瞳ではなかった。
――これは猫だわ――
 画僧の中心には猫がいた。
 よく見ると、猫を抱いているのが一人の女性で、その女性の唇が深紅に光っているのも感じることができた。
 その後ろから男性が彼女を抱きしめている。その顔には表情はなく、何を考えているのか分からなかった。自分が抱きしめている女性がカメラ目線であるのに対して、男性はまったくの無表情だ。
――こんな光景のどこがSMチックなんだろう?
 本はSM画像に関する本だった。
 芸術の本なので、カメラ画像だけではなく、絵画もそこにはたくさんあった。ページを捲るうちに、いろいろなイメージが交錯しているように思えた。
 いかにもエロチックなものもあれば、
――これのどこがSMなのかしら?
 と感じさせるものもあった。
 瀬里奈はその画像の続きを想像してみた。
 最初に感じたのは、抱きしめられている女性が微笑む顔だった。その表情は笑顔というよりも妖艶さを含んだもので、同じ女性でも子供の瀬里奈には到底及ばない笑顔に違いなかった。
 それよりも、笑顔の種類が違っているように思えた。何を考えての笑顔なのか、さっぱり想像がつかない。
 後ろから抱きしめている男性も相変わらずの無表情。指は微妙に女性の敏感なところをまさぐっているかのようだったが、女性の表情は、その指の動きに連動しているわけではなかった。
――相手の女性が自分のテクニックに反応していないことを悟ると、男性はさらに攻め立てるのではあるまいか?
 男性経験があるわけではない瀬里奈だったが、なぜかその時、相手の男性の気持ちも、されるがままになっている女性の気持ちも両方分かるような気がした。
 むしろ、今だから分かるのではないかと思うほどで、自分が今画像に魅せられているということを感じていた。
 だが、画像はまったく動かない。想像はできても、そもそも正解などあるわけではない状況に、瀬里奈は次第に冷めた気分になっていくのを感じていた。
 その画像を見ていると、女性の表情を想像することはできたが、気持ちという意味では、まったくの無表情になっている男性の方が、内に秘めた気持ちが分かるような気がしていた。
――私って、やっぱり男性的なところがあるのかしら?
 と感じたが、だから自分は男性から好かれないのだと思った。
 まったくの無表情の男性であったが、よく見ると、体のあちらこちらで汗を掻いているのが分かった。
――きっと私にしか分からないわ――
 と思えるほど、錯覚でしかないようなイメージだった。
作品名:電子音の魔力 作家名:森本晃次