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電子音の魔力

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 瀬里奈は子供心に、
「見えないのに、どうして声だけ聞こえるのかしら?」
 と思ったものだが、同じ空間なのに次元が違うという感覚を納得できなかったことで、当たり前と言える疑問を感じたのだ。
 だが逆に、
――同じ次元で違う空間にいれば、姿も見えなければ声も聞こえない――
 と考えると、
「次元というのは、空間よりも感覚が近いものなのではないか」
 と思えてきた。
 次元の違いは、結界のようなもので、見ることもできなければ、感じることもできないと考えていた。だが、ドラマで見た次元という発想は、逆の考えに導かれるものであり、ある意味、瀬里奈には納得に導けるものに感じられた。
 そんな風に考えていると、
「夢の世界こそ、四次元の世界に近いんじゃないかしら?」
 と感じるようになっていた。
 四次元の世界は、今の三次元の人間の発想では、行き着くことのできないものである。それなりに理由があるものだと思っている。
「三次元の人に、四次元を理解することはできない。納得できるわけはない」
 と四次元では考えられているのかも知れない。
 それだけ三次元の人間は、自己顕示欲が強く、自分たちだけが存在することができる価値があるという考えである。
 そういう驕りがあるから、三次元の人間には、見たいと思っている夢の続きを見ることができないと思うのは、瀬里奈の中で無理もないことだと思っていた。
――ということは、夢の中の自分は、自分であって自分ではない。つまりは異次元の自分なのかも知れない――
 と思うようになった。
 だから、もう一人の自分を夢の中で意識すると、それが今まで見た一番怖い夢だという気持ちになっていた。
「もう一人の自分を夢で見ると、これほど怖い夢はないという感覚になり、忘れてしまいたいと思っても、意識の中に残ってしまう」
 と感じていた。
 だから、基本的には同じ夢の続きは見ることができないものだと思っていたのだが、最近ではそうでもないような気がしていた。どうしてそう思うのか自分の中で自問自答を繰り返していたが、
「急に目が覚めてしまう現象に陥っている今なら、できそうな気がする」
 と思ったからだ。
 そんな時、郁美から、
「電子音のせいじゃない?」
 と言われたことが目からうろこを落とすことになった。
 電子音がどこから鳴っているか分からないということは意識していないわけではなかった。
「ビックリした」
 という意識は昔からあり、その原因がどこなのか分からないだけだった。
 それも何度も感じていくうちに、次第に分かってくるというのも道理というもので、分かってくると、今度はまったく意識することがなくなってくる。意識しなくなってくると、電子音を意識したということ自体、自分の中で忘れてしまっていた。それはまるで夢の内容をまったく覚えていないかのように、電子音がどこから鳴っているのか分からないものだということを意識したことすら忘れてしまっているのだ。
 ただ、ふとしたことでまた感じるというのは、それだけ電子音が生活の中で頻繁なものになってきているという証拠であろうか。意識するしないはその時々の感情の違いと言い切れるのか、意識したからと言って、その時は神経が高ぶっている時だという意識はまったくなかった。
 ただ、最近は電子音を意識することが頻繁になっていて、
「ひょっとすると、電子音を聞くことで、見たい夢の続きを見ることができるかも知れない」
 と感じたのは、まんざらでもない。
 電子音のことをずっと意識するようになったことで、その時から、夢を見たという意識がハッキリとしてきた。まだまだ夢の内容を思い出せるまでにはなっていないが、焦ることはない。今まであれだけ夢に対しては確固たるものが自分を納得させてきたのだから、その壁を崩すのは容易なことではないことは分かっている。絶対に壁を崩す必要もないのだし、焦る必要などサラサラないのだ。
 この間見た夢を思い出していた。
 その夢は怖い夢だったとは思えない。楽しい夢だったのかどうかも分からないが、それは目が覚める時にホッとした気分になったからだ。
 ホッとした気分になったということは、怖い夢を見ていて、現実に引き戻されたことで、
――よかった――
 と感じたからなのか、それとも、その夢が現実に近い夢で、現実と夢の世界の混同が、頭の中で錯綜してしまい、目が覚めた瞬間すら分からないほど自然だったことで、ホッとした気分になったのかが分からなかったからだ。
 夢の中で電子音を意識したのは、その時が最初だった。
 その後にも何度か夢から覚める時、電子音を感じている。感じるたびに不可思議な思いが頭の中に残っていた。
「電子音を感じることが夢から覚める前兆になっているのか、それとも電子音は夢の中で鳴っているものなのか分からない」
 という思いであった。
 最初はアラームの電子音が現実世界で響いていることで、夢から覚める前兆になったのだと思っていたが、何度目かに目が覚めた時、ハッキリと意識したことで、
「あれ? 静かだわ」
 と感じた。
 部屋はシーンとしていて、アラームが鳴っていたわけではない。
「私が無意識に切ったから?」
 と思って時計を見たが、時計はセットしていたアラームの時間までにはまだ少し時間があったのだ。
 考えてみれば、アラームは目覚まし時計だけではなく、携帯電話にも仕込んでいて、パジャマの胸ポケットに入れていた。バイブ機能と音を一緒に出すようにしていたので、目覚ましの音よりも携帯電話の振動の方が先に感じるはずだと思っていた。多少の誤差があったとして、携帯電話が遅かったとしても、後から追い打ちをかけるように胸に襲ってくる振動でハッキリと目を覚ます機会に恵まれるのだから、効果はてきめんということであろう。
 最初の頃は目が覚める瞬間のぼんやりとした意識と、目が覚めてしまったことで、電子音の役目は終わったという当たり前の状況に、意識するまでもないと思っていたのではないだろうか。
 ということは、アラームの電子音を意識し始めたのは、実際には最初に聞いた時ではなく、それからかなりの時間が経過してからだということになる。よく考えればありえることではあるが、夢の世界から現実世界に引き戻される時に聞く電子音という、単独で考えるとそれぞれに言いたいことがいっぱいありそうなことの連結に、一旦意識することで自分がどこにいるのかを再認識しようと考えたのだろう。
 我に返るという感覚とは少し違っているのかも知れない。
 我に返るということは、意識していなかったことに気付いて、現実世界に引き戻されることをいう。この場合は、現実世界から引き戻されることだと思っていたのが、実際には分からなくなったことで意識し始めたのである。順序としては逆だと言えるのではないだろうか。
 相変わらず、覚えている夢はほとんどない。電子音が気になるようになってから、特に夢を見る回数が増えたということも、減ったという意識もない。元々、夢を見る回数が、今までが妥当だったのかどうか、比較対象がないのだから、判断のしようがないというものだ。
作品名:電子音の魔力 作家名:森本晃次