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電子音の魔力

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 と瀬里奈は感じたが、それが舌打ちをしたという行為に対してなのか、舌打ちをされた自分がどうして衝撃を受けたことなのか、それとも、舌打ちをされたことで、自分が普段考えている両親の違いについて考えていることに納得のいく結論を見つけたことなのか分からない。
 特に最後の納得がいく結論と言っても、分かってしまえば、
「最初から分かっていたこと」
 として考えていたことに対して、拍子抜けもしているのだ。
 瀬里奈は、人に気を遣うということが、たぶん一番毛嫌いしていることだと思っている。その思いは母親に対しての反発からも来ているのだろうが、一番の理由は、
「自分を納得させることができないからだ」
 と感じていることだろう。
 気を遣うということが嫌いになったのは、母親の本心を見抜いたからなのか、母親の本心を見抜いたから、人に気を遣う母親が嫌いになったのか、どちらが先なのか、瀬里奈には分かっていなかった。
「まるでタマゴが先か、ニワトリが先か」
 という理論みたいだわ・
 普通に考えれば、
「矛盾の無限ループ」
 に近いこの言葉とは縁遠いような気がした。
 鏡を前後あるいは左右に置いた時の、
「合わせ鏡」
 に似ているのが、ニワトリとタマゴの理論である。
 永久ループを予感させるものなのだが、瀬里奈には、
――本当に、無限ループなどあるのかしら?
 という疑問があった。
 理論的には可能なことでも、実際には存在しないものがこの世の中にはたくさんある。逆に実際に存在するものでも、理論的に不可能と思われていることもたくさんある。その二つに共通していることは、
「少し頑張れば、それぞれ相手の世界を覗くことができるかも知れない」
 という思いだった。
 矛盾の無限ループは、きっとその先の未知の世界への入り口に正対しているものだと思っている。紙一重の状況なのに、その紙一重をどうしても超えることができないのだ。
 それが、
「人間の中にある納得」
 というものではないだろうか。
 父親と母親、どちらがエロかグロかと言えば、母親の方にグロを感じた。
 グロテスクという言葉は元々芸術から来ているものだということだが、気持ち悪いものと芸術というのも紙一重なのかも知れない。
 だが、そこには結界があり、その結界が壁となって向こう側が見えないのか、それとも、結界がレンズのような役割を持っていて、錯覚によって、近くにあるのに、遠くにあるようにしか見えないのかのどちらかなのかも知れない。
 理屈は合わせ鏡だとして、ある一方だけが肉眼で見えていて認識できるとすれば、写っている被写体は、どんどん小さくなって、次第に消えゆく運命にあるのを感じるかも知れない。
 決して消えることのないはずの被写体が、見えるギリギリまで遠く感じられる距離までくるとすれば、見えていない鏡が、グロテスクと芸術の間に立ちはだかる「結界」なのではないだろうか。
 そんなことを考えていると、結界というものは、世の中にたくさん蔓延っているように思えてきた。
 あらゆるものに存在するのが結界だと考えると、
「自分のすぐそばにあるものでも、その結界のせいで見ることができない世界がこの世には存在する」
 と言えるのではないだろうか。
 そんなことを考えていると、図書館で見た本の中で気になる記事があったのを思い出した。
 あれはミステリー小説に関しての本であったが、ある作家が一つの天体を創造したと書かれていた。
 それは、ブラックホールに似ている発想ではあるが、別に星を吸収するものではないということだった。
「星というのは、自らが光を発するか、光を発する星の影響を受けて、その光を反射させることで、自分が光っているようにまわりに存在を見せている。しかし、宇宙にはみずからで光を発することも、光を反射させることもなく、光を吸収させる天体がある。そのため、まわりの星はそんな星の存在を知ることもないので、近くにあったとしても、その存在を知ることはない。いきなり軌道が狂って、いつこちらと衝突するか分からない。そんな恐ろしい星が、本当に存在しているのだ」
 という発想である。
 結界という発想を思い浮かべた時、この本を思い出すのは、きっと無理もないことだったのだろう。
 このお話を書いたミステリー作家は、
「自分のまわりに自分のことをまったく意識させない、まるで『石ころ』のような存在の人がいます。そして、その人は普段からその状況に染まっているので、いつも何食わぬ顔をして皆に接しています。だから、誰も疑わない。だが、存在があまりにもまわりに特化しているため、味方だとも思わない。普通皆さんは、誰かを意識する時、相手を自分の敵味方で判断しますよね? それはそれで無理もないことだと思います。特に男性は、表に一歩出れば、七人の敵がいると言われるくらいですからね。それも当然のこと。でも、その人に対しては敵味方という意識を持たせない、そんな存在なんです。つまりは特別な存在であるにも関わらず、意識されないという一種の矛盾した存在。それが、この星のような男性なのではないかと思います」
 と、謎解きの時に、探偵に話をさせていた。
「でも、そんな人間がいるというのは怖いことですよね?」
 と誰かがいうと、探偵は初めてその時、この星を創造したという学者の話をする。
「その学者がいうには、そばにまったく光を発しない星が存在しているのに、それにまったく気づかないというのは恐ろしいことですよね。だって、いつ接触するか分からないわけです。少しでも接触すれば、地球自体は壊れなくても、そこに住んでいる人には重大なことです。自然環境はまったく異常をきしてしまい、世界は大混乱、火山の噴火、極地の氷は氷解し、海面の上昇で、陸地のほとんどは海面に沈んでしまう。化学的には氷が解けても水面は上昇しませんが、解ける時に発生する津波などで、想像を絶するような大惨事を招くことになるでしょう」
 と探偵は神妙に話した。
「だから、星なんですね?」
 と一人が言った。
「そうですね。星という単位。つまりは想像できないような巨大な質量だったりエネルギーが発生することで起こる大惨事なんです」
「今回の犯人は、そんな天体に創造された星のようなものだと、私は思い描いていました。神出鬼没で、我々の想像の及ばないようなトリック、そして奇想天外で大胆な犯罪、それはこの星の発想でもなければ到底理解できるものではないからですね」
 と探偵は言った。
 実際のトリックやストーリー展開としては。ここまで大げさなものではなかったが、小説家のこの発想があったからこそ、瀬里奈は内容を覚えていたのだし、この作家に対してのイメージが過大ともいえるほどに膨らんでいた。
 瀬里奈はこの作家の才能を深く評価し、他の小説もほとんど読破した。
 なるほど、他にも興味を引く内容の小説が乱立していたが、これほどの衝撃的な内容のものは他にはなかった。それほどこの星に対してのイメージが強く、その後にも自分の人生に大いなる影響を与えそうな気がしているのだ。
 それは、瀬里奈がその星から感じられる人格を、自分と照らし合わせているからなのかも知れない。
作品名:電子音の魔力 作家名:森本晃次