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短編集69(過去作品)

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 何も選手として実力がないだけがサッカーができなくなるわけではない、不慮のケガでサッカーができなくなってしまえば、選手として出場できなければ推薦で入学したとしても、成績がついてこなければどうしようもない。そういう意味で先輩は実力で入学したのだ。推薦の話しのなかった私にしても同じである。まわりと同じ土俵に立ってみれば、推薦で入学した目線とはかなり違うはずだ。まず友達の種類が違ってくることだろう。
 推薦で入学していれば、友達の幅は狭かったに違いない。まわりにはサッカー関係の友達ばかり、サッカーができなくなってしまうという最悪の結果を迎えれば、精神的な助けになるかも知れない友達は、すべてがサッカー関係である。友達としてそれ以降も付き合ってくれるかどうか、分かったものではない。
 私が思いつくくらいなので、先輩には最初から分かっていたに違いない。目の前の楽な道を選んで、
「もし、万が一にも」
 という危惧が浮かんでこなければ、気が付いた時には一人宙に浮いたまま、まわりは四面楚歌になっていることだろう。そうなってしまっては、すべてが後手に回る。後手に回れば、何も見えなくなってしまい、一歩も動けなくなってしまうだろう。
 先輩はスポーツをする気はないようだった。文学がしたいらしく、文芸サークルに所属していた。真面目に本を出したいと思っているようで、
「本を出すって難しいですよ」
「夢で終わってもいいんだ。夢というのは、見るためにあるもので、叶えるためではないからね」
 と、笑って答えてくれた。
 言い訳にしか聞こえないことでも、先輩が言えば、格言に聞こえてくるから不思議なものだった。格言と言えば大げさだが、信頼している人の言葉が尊敬できることであれば、それはすでにその人にとって格言というのではないだろうか。
 私も迷わず文芸サークルに入った。先輩と一緒にいるだけでもいいという気持ちになったからだ。これは恋に似ている。したがって、次第に色褪せていくのではないかと、最初から分かっていた。
 それでも先輩に少しでも近づこうとする自分が健気で、その健気さが、先輩に対する想いと交錯してしまっていることに気付いていなかった。健気さがゆえに、いつの間にか自分が何をやりたいのかが分からなくなっていった。
「大学というところは、何だってできるって気分になるだろう? それこそ夢と同じじゃないかって思うんだ。覚めない夢はないというから、いつかは卒業していくことを自覚しなければいけないんだよな」
「夢と似ているというのは?」
「夢だからと言って何でもできるって思わないか? でも実際には何でもできるわけじゃない。潜在意識が働いているから、実際にはできないことは、できないってしっかり分かっているのさ。たとえば空を飛びたいと思っても、しょせん、足元に浮かぶくらいが関の山さ」
「でも、僕は自由に飛んでいる夢を見たことがありますよ」
「じゃあ、きっと、夢の中で空を飛ぶ夢を見ているのかも知れないね。夢の中で見る夢まで潜在意識が働いているとは思えないからね」
「なるほど」
 目からウロコが落ちた心境だった。
 夢の中で夢を見ている心境というのを自覚することはできない。夢を見ているという意識を持つ時があるが、その時に潜在意識が働いていると思うのだ。夢がこの世の反対側の世界なら、夢の中の夢はこの世から見ればどのように映るのだろうか。
 先輩と話をする時は、いつも馴染みの喫茶店だ。ここは、私がまだ高校時代に先輩に会いに来た時からの馴染みなので、私の入学を知ったマスターは、喜んでくれた。
「常連がまた一人増えたね」
 冗談半分、本気半分であろう。元々ここは先輩が大学の近くで一番気に入っている喫茶店、私も常連になれて光栄だった。
 先輩の話しには、いちいち感心させられる。しっかりした考えが文章にも表れていて、先輩の小説には、説得力がある。漠然と本を読む人には分からないかも知れないと思うほどの深さがあり、逆に漠然としてしか本を読まない人には、読んでほしくないくらいに感じるほどだ。
 玄人好みというべきか、文芸サークルの中に埋もれさせるのがもったいないくらいである。
「どこかに投稿してみればいいのに」
 と先輩に助言してみたが、
「何度か投稿してるんだけどね。なかなか難しいものだよ。皆プロを目指すような人ばかりが相手だから、さすがに俺も気後れしてしまうよ」
「先輩くらいでも気後れするんですか?」
「そりゃ、そうさ。これでも、結構欲を持ってるつもりなので、応募してくる他の人たちの気持ちもよく分かるのさ。他の人の作品を見たことがないだけに、余計に不安になったりするものだよ」
 比較するものがないと、自分の実力がどの程度なのか分からない。学校の試験のように順位を張り出しているわけではない。一次審査、二次審査、そして最終審査に残ったか残らなかったかしか分からないのだ。一次審査で不合格なら、それこそその他大勢の中の一人でしかないのだ。
 一度だけ二次審査まで行ったことがあると言っていたが、
「さすがに嬉しかったね。自分でケーキを買ってきて、一人でお祝いをしたくらいだよ。サークルに所属しているとはいえ、小説を書くのは孤独な作業である。サッカーのようにチームワークを大切にしなければいけないのも大変だが、孤独をどのように自分で受け入れるかが、その人が執筆に携わる姿勢の中で重要なところではないだろうか。
――俺にできるだろうか?
「先輩は書いていて不安になったりすることはないですか?」
「ないことはないけど、書いている時は集中しているからね。充実感もそれなりにあるし、不安があったとしても、それを補って余りある期待の方が大きいのさ」
 サークルには二十人ほどの部員がいた。二十人というのは、私が思っていたよりも多かった。
――そんなにたくさん、文芸を好きな人が多いんだな――
 と思っていたが、中に入ると少し事情が違っていた。
 文芸目的で所属している人は、半分、いや、半分にも満たないかも知れない。文芸という芸術に携わっているサークルということで、合コンの話や取材旅行と称する旅行が目的だったのだ、
 取材旅行も少なくない。真面目に文芸を志す者は、実費を叩いてでも自分から取材に出かける。目的のある旅行なので、充実した期間を過ごしている、何しろ実費がかかっているのだから、意気込みも違っていて当たり前である。先輩も何度か取材旅行に出かけたという。
 先輩の小説は恋愛モノから、ミステリーが多い。一見、関連がなさそうだが、
「最初、恋愛モノを書いていたんだけど、ミステリーも書くようになったのは、恋愛モノにも種類があることに気が付いたからなんだ。ベタな恋愛よりも、ドロドロとした愛憎絵図が渦巻く話が、ミステリーと結びついている気がしてね」
「愛憎絵図、ですか?」
 まさか先輩の口から、「愛憎絵図」などという言葉が出てくるなど、思いもしなかった。あまりにも似合わない言葉に思えたからだ。
作品名:短編集69(過去作品) 作家名:森本晃次