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異次元の辻褄合わせ

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 せっかくの物理学を興味津々の形で勉強したいと思っているのに、物理学を数式や理論で片づけてしまうことは、興味津々な気持ちを半減させてしまうと思ったからだ。
 だから、リアルになりかかると、そこで勉強をやめてしまう。それ以上知りたくないと思うのだ。
 この思いは一種のこだわりのようなものだろう。
 暗黒星の話を読んでから、あいりは物理学を別の方面から興味を持つようになった。小説の中から物理学的な話に結び付くものを探していこうと思うようになった。
 小説を読んで、物理学が小説のアイデアとして使われる様子を見て、小説のストーリーやトリックから、今度は物理学の本を漁ろうと思うようになった。
 暗黒星の話は見つけることができなかったが、他の話に本当に信憑性があれば、見つけることはそんなに難しくはないだろう。
 実際にSF小説などの中にはタイムマシンのお話や、おとぎ話に通じるような話から、過去の科学者が提唱した話が描かれていることも少なくない。
 逆に小説やおとぎ話の方が先で、後から理論が証明された話もある。物理学者の中には過去の小説やおとぎ話の中から物理学に通じるものを見つけ、自分でその論理を組み立てて、その中で証明をしていくという人もいるに違いない。
 あいりは、その方が何となく論理的な気がしていた。しかし、そのためにはおとぎ話や小説を書いた人が、物理学的な発想を抱いていなければ成立しないことでもある。そういう意味では小説を描ける人は、物理学的な発想も抱くことができる人が多いと言えるのではないか。そういうことになれば、文才も物理学を証明する学問的な頭脳も、同じ頭に存在することができると言えるのではないだろうか。
「小説を書くことができる人は物理学の発想も持つことができ、文章で証明することもできるが、逆に物理学を専攻している人は物理学を証明する文章を書くことができるが、小説のような題材として扱うことはできないのではないか」
 という発想を、あいりは頭の中で抱いていた。
 小説を書くことができるだけの発想力を備えた頭脳を持った人は、物理学の難しい本もさほど苦労することなく読破できるのではないかと思うようになると、
「物理学よりも文才を磨く方がいい」
 と思うようになった、
 物理学に対して勉強が嫌いなわけではないが、小説を書けるようになるという意識が先行してしまい、物理学への勉強に自ら制限を掛けてしまっていたのだ。
 だが、そんな意識はあいりにはなかった。
「なぜ、物理学の成績がよくないんだろう?」
 と自分でも不思議に思っていたが、悩むことはなかった。
 悩むというよりも成績の悪さを自分の勉学が足りないからだという意識を持たないようにすることで、どうして成績がよくならないのかということを真剣に考えないようになっていた。
 物理学が好きな人がクラスメイトにはいたが、彼女はまわりから敬遠されていて、ガリ勉タイプのせいか、どうしてもまわりに人が寄ってこない。そんな中、安藤頼子だけは彼女と友達になっていて、いろいろな話をしているようだった。
 彼女の名前は中島静香といい、数学も得意なので、あいりは意識しないわけにはいかなかった。
「私は数学よりも物理学の方が好きなのよ」
 と静香は言っていたが、その理由までは聞かなかった。
「私は数学の方が好きかな? 物理学はどうしても数学の延長のように思えるからなのか、あまり好きではないわ」
 と、あいりが言うと、
「それは、好き嫌いの問題なんじゃなくて、自分の中での許容範囲の問題なんじゃないかしら?」
 と静香に言われてあいりは、
――痛いところをつかれた――
 と思った。
「そうかも知れないわね。でも、私も最初は数学が嫌いだったのよ」
 とあいりがいうと、静香はニコリと笑ったその表情から、
――何でもお見通しよ――
 と言わんばかりの表情に、ドキリとさせられた。
「鈴代さんは、算数というものが好きだったのよね。数学のように公式に当て嵌めて解くわけではなく、幾種類もある解き方から理論に沿っている回答の求め方さえできていれば正解という算数が好きなのよね。その気持ちは私にも分かるわ」
 やはり静香は、あいりの考えていることをお見通しのようだった。
「中島さんは、算数は好きだったの?」
「最初は算数が嫌いだったの。小学三年生の頃まではまったく算数ができなくて、よく先生から補修のようなものを受けていたわ。先生から言わせれば、『本当の基本が分かっていない』ということだったらしいの」
 と静香は言った。
「どこで詰まったの?」
「私は掛け算、割り算のあたりで分からなくなったの。特にゼロを掛けたり割ったりするという理屈がどうしても分からなくてね」
「今はどうなの?」
「今でも分からないわ。私が算数を好きになったのは、分からなくてもいいという思いを抱いたからなのかも知れないわね。絶対に理解しないといけないことなんかないと思うようになってから、面白いように算数の問題が解けるようになったの」
「私も確かに算数を勉強していて詰まったところがあったはずなんだって思うわ。でもその時は何とか理解したような気がしたの。急に理屈が分かったような、そう、閃いたというべきなのかしらね」
 とあいりがいうと、
「それは錯覚なのかも知れないわ。分かったつもりになって先に進むと、いずれはどこかで引っかかってしまうというのが私の考えなの。きっと算数から数学になった時、あなたの中で分かったつもりになっていた理屈がよみがえってきて、急に前に進めなくなってしあったんじゃないかしら?」
 と静香は言った。
 算数から数学に変わった時、算数のように幾種類の解き方があって、それを一つ一つ発見し、頭の中で組み立てていくことが算数の醍醐味だと思っていた。
 だがあいりも算数が最初からできたわけではなかった。あいりの場合は静香よりもひどく、一番最初の基本である、
「一足す一」
 という概念が分かっていなかったのだ。
 分からないというとまわりから何を言われるか分からないと持ったので、分かっているつもりでいた。基本中の基本が分からないのだから、応用など利くはずもない。算数の成績は最低で、先生も補習をしてもどうして成績が上がらないのか分からないようだった。
 だが、本当の原因が基本中の基本が分かっていないということだというのは分かっていたのではないだろうか。先生としても、教師としてそんな生徒がいることを自分で認めたくないという思いから、その思いを打ち消していたのかも知れない。
 先生がそうやって生徒に歩み寄ろうとしないのだから生徒も理解できるものもできるはずがない。しばらくは先生と生徒の間で平行線が続き、歩み寄りなどあるはずがなかった。
 だが、あいりも算数が分かるようになったのは、ある日突然のことだった。どうして分かるようになったのか自分でもよく分からなかったが、分かってしまうと、それまでできなかった問題がウソのように解けるようになっていた。
作品名:異次元の辻褄合わせ 作家名:森本晃次