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異次元の辻褄合わせ

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 インタビュアーの話は、作家というプロ意識の高い人に対しては、かなり微妙な心境をくすぐる言葉だったように思えたのに、作家が微動だにせずに聞いていたというのは、やはり二人の間には強い絆のようなものが存在していて、ひょっとすると、相手の見えない力を引き出す効果を持った存在だとお互いに思っているからなのかも知れない。
 そこにはフィフティフィフティの力が働いていて。お互いに最大の力を発揮できることを分かっているのではないかと思った。
 以前、あいりはこんな話を聞いたことがある。
「フィフティフィフティという関係が一番力を発揮できるんだよ」
 と言われて、
「どういうことですか?」
「例えば、五の二乗は二十五でしょう?」
「ええ」
「でも、足して十になる数と掛け合わせた時、一番大きな数字というのは、二乗なんですよ。つまり片方に一を引いた四と、片方に一を足した六を掛けたとしても、二十四にしかならない。二十五に満たないわけですからね」
 と言われて、あいりは、
「なるほど」
 という言葉とともに、自分がすべてを理解したということを示した。
 相手もその気持ちは分かったようで、それ以上何も言わなかったが、その話がきっかけで、あまり友達のいないあいりは。彼女と少しの間、こういう会話で盛り上がったのであった。
 残念なことに、仲良くなってから半年もしないうちに彼女は父親の仕事の関係で遠くに引っ越してしまったので、会話ができる人がいなくなってしまったが、それも仕方のないことだと思う、
――前の自分に戻っただけだわ――
 と感じただけで、不思議と悲しさはなかった。
 そんなことを思い出している時間が、ちょうど作家とインタビュアーの間に持たれた沈黙の時間だったので、あいりとしても、その時間が長くは感じられなかった。長くは感じられなかったはずなのに、どうして放送事故を予想したのか、自分でも分からない。普段から自分で何かを考えている時、本当は集中しているわけではなく、まわりのことに意外と注意を払っているのではないかと思うようになっていた。
 作家が、
「描かされている」
 と言った言葉を自分で噛みしめているのは見て取れた。
 その表情には、何が複雑な心境なのかということよりも、それ以上に最初に言った、
「大胆さ」
 という言葉の意味をいつ話そうかと、本当はワクワクしているのではないかと思えたからだ。
 あれから、たった数十秒くらいしか経っていないはずなのに、彼が言った大胆さという言葉がまるでだいぶ前だったような気がするのは、あいりいとって珍しいことではなかった。
 インタビュアーの人も満を持して聞こうとしているようだが、あいりとすれば、これ以上満を持してしまうと、今度は焦らしの世界に入ってしまい、却って逆効果になるのではないかと思えていた。
 だが、それはあくまでも聞き手の発想であって、話をしようとしている人たちの方が、そこまで考えているのかどうか、読み取ることはできなかった。
 作家はおもむろに話し始めた。
「描かされていると思った時、僕は絵の基本というものが何であるかということを考えたんです。絵というものは、目の前にあるものを忠実に描くというのが基本だと思って居yタンですよ。特に風景画や人物がを描く場合にですね。確かに抽象画だったり、印象派のような画家は、自分の発想を元に描きます。それは何かを題材にしてはいるけど、目の前のものを描いているわけではありませんよね。画家というものを二つに分けるとすれば、僕は前者に当たるんだろうって思ったんです」
 と作家の先生は言った。
「その通りだと思います」
 インタビュアーも作家が切々と話し始めた時は、その言動を妨げることはできないと思っているのだろう。
 それは職業意識からくるものではなく、作家先生に敬意を表している気持ちから来るものだと認識していたのであろう。
「そこで僕が思ったのは、絵を描くことに大切なことは、大胆さだって思ったんです。これは実は絵を志した人たちが一番最初に感じたことで、それを皆忘れてしまっているだけなんじゃないかってね。僕もその一人なんですが、そのことをどうして忘れるかということではなく、どうして覚えていないのかということではないかと思ったんです。つまりは覚えていなければいけないことであって、忘れてしまうことではないという発想なんですけどね」
 あいりは少し話が難しいので、テレビを見ていて集中しているせいか、時間があっというy間に過ぎているような気がした。
 それだけ話に引き込まれているようで、作家がその次に何を言うのかが気になってしあった。
「大胆さというのは、以前私が別のクリエーターの方とお話した時も、その人も似たようなお話をされていました。そういえばその人は話をしながら、目線が明後日の方向を向いていて、焦点が定まっていなかったような気がしたんですが、今先生とお話をしていて、『描かされている』という発想から、『何かに突き動かされている』という発想に繋がるのではないかと思うようになりました」
 とインタビュアーが言ったが、
「私の『描かされている』という発想と、『何かに突き動かされる』という発想は、少し違っているように感じますよ」
 と、作家の先生は言った。
「どういうことでしょう?」
「ただ、皆さんが感じている感覚とは少し違っているような気もします。どういう感覚かというと何かに突き動かされているというと、自分の意志如何に問わず、外からの力によって動かされていると思うでしょう?」
「ええ」
「でも、描かされているというと、今度は他からの意志は別にして、本人に意志がない場合をいうような気がするんです。でも、それって、本能のままというような感覚ですよね。本能で動いているのに、まるで受動的な表現というのは、私には許せない気がするんですよ」
 作家の話を聞いていると、あくまでも作家の好き嫌いによる発想でしかなく、他の人が聞けば、その説得力はともかく、信憑性も感じられないような気がする。
 インタビュアーの人の表情も複雑で、どう答えていいのか迷っていたが、作家の先生の表情には戸惑いはなかった。
 作家は続けた。
「そこで大胆さという発想が生まれるんです。意外と描かされていると思っている時に、自分が大胆になれるような気がするんですよ。それはやはり本能によるところが強いのではないかと感じることもあります。そして、この大胆さが描かされているという発想から来るのだと思うと、今度はその大胆さがどこにいざなうのかを考えると、おのずと見えてくるものがあったんです」
 作家はそう言って、用意されたドリンクに口をつけた。
 これからいよいよ話が核心に入っていくのではないかと思わせたので、インタビュアーも余計なことを言わないようにしようと思いながら、固唾を飲むことで、相手の出方を見る戦法に出た。
 インタビュアーが話を始めないことを確認したのか、作家の先生はおもむろに口にしたドリンクから口を話して、わざとゆっくりと時間を使っているかのように見えた。
作品名:異次元の辻褄合わせ 作家名:森本晃次