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異次元の辻褄合わせ

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 自分のプライドを表に出してしまうと、人への自慢になってしまい、苛めの対象とされてしまった小学生時代を思い出す。その思いがあるからあいりは、自分の気持ちを表に出そうとするのを、
「憤りが苛立ちに変わる時」
 という思いを抱くに至ったのだ。
 あいりはいすも一人でいることが多かったような気がする。
 今回は彼が一緒にいてくれてはいるが、一緒にいる時間に憤りを感じ、さらには汗を額に掻いていることうぃ意識し始めていた。
 今まで額に汗を掻いているということを意識したことはあまりなかった。後になって、
「汗を掻いていたんだわ」
 と気付くことはあったが、それはあくまでも冷静さを取り戻してからであって、それまでの自分が汗を掻いていたなど、意識もしていなかった。
 感じている時間の感覚も複雑である。
 最初の方では、自分が焦っていたり、憤りを感じているというような意識はなかった。どちらかというと、
「流れに任せている」
 という感覚で、嫌な時間ではなかった。
 むしろ時間を流れに任せることが快感に繋がっているようで、自然なことだという思いが強かったに違いない。
 そんな時あいりは、自分の中に、
「もう一人の自分」
 の存在を感じていた。
 普通は表に出ることもなく、ひっそりとどこかに存在している。いつもう一人の自分を意識するのかということは分からなかったが、どこかにいるのだけは分かっていた。
 分からなかったというのは、存在の意識があるが、もう一人の自分が、本来の自分に何か影響を及ぼすことはないという意識から、存在を考えないようにしていたのかも知れない。
 もちろん、もう一人の自分の存在も、もう一人の自分が本来の自分に影響を及ぼさないという意識も信憑性のあるものではない。前者には信憑性、そして後者には根拠という意味である。
 あいりは、いつも何かを考えているような気がしていた。それは一人の時に目立っていることであった。他の人と一緒にいる時には逆に何も考えないようにしている。まわりに集中ができないと思っているからだ。
 あいりは、集中力という意味では散漫だと思っている。一つのことに集中すると、他のことがおろそかになる。だから、いつも一人でいるということの根拠なのではないかと思うようになった。
 そんなあいりは自分が彼と一緒にいる時、次第に何かを考えるようになったことに気付いていた。
 彼が何も言わないのもその一つであるが、この環境がいつも一人でいて、何かを考えている時と酷似しているからではないかと思っている。
 そんな時、あいりは何かを考えている自分のそばに、もう一人の自分の存在を感じた。それは他人事のように自分を見ているからであって、その他人事のように思う感覚は、実に久しぶりのように思えたが、実際には昨日にも感じたことであるということを、あいりはまったく意識していなかった。
 あいりの中で、もう一人の自分が現れる時、絶えず何かを考えていたような気がした。何を考えているかというのはその時々でバラバラなのだが、あいりの中では、
「大きく分ければ四つほどで、細分化しても十個にも満たないような気がする」
 と思っていた。
 もちろん、何ら根拠のあるものではなく、考えていたことを覚えているわけではないので、自分でも自信がないような気がする。
 ただ一つ考えているのは、
「細分化して十個というのは、かなり少ないような気がする」
 というものだった。
 いくらでもパターンを考えようと思えば考えられるはずで、十個しかないということは、何かを考えている時、かなりの確率で同じことを考えているということではないかと思えたのだ。
 そこであいりが感じたのは
「夢との違い」
 だった。
「夢というものは、潜在意識のなせる業だ」
 という話を聞いたことがあるが、この意見にはあいりも異存はなかった。
 実際に夢を覚えていることは少なかったが、夢を思い出そうとして思い出せない中で、
――何か懐かしさがある――
 と思うのも事実だった。
 そう思うと、
「夢というのは、自分だけの意識で見るものではなく、もう一人の自分が影響していることなのかも知れない」
 と思うようになった。
 もう一人の自分の介在という考えは、夢だけだと思っていたのは、いつ頃からであっただろうか。小学生の頃からだったのは間違いない。苛められていた頃に頻繁に考えていたことは覚えている。
「覚えている夢というのは、怖い夢が多い」
 とあいりは思っている。
 楽しかった思い出の夢も覚えていることはあるが、目が覚めてから、
「楽しかった」
 と思うのであって、実際には怖い夢ではなかったかと感じるのも事実だった。
 あいりは最近感じている、
「どこからどこまでが怖い夢で、どこからどこまでが楽しい夢なのか?」
 という疑問である。
 怖い夢と楽しい夢が同居している部分があるのか、それとも怖い夢と楽しい夢との間には隔たりがあり、それ以外の夢も存在するのか、覚えていないだけに意識の中にしっくりくることはないが、あいりは気が付けばそのことを考えていることがあった。
――一人で何かを考えている一つがこのことなんだ――
 と、あいりはふと感じた。
 一つのことを感じたからと言って、他のことも思い出せるとは限らない。むしろ一つのことを思い出したことで力を使い果たし、もうこれ以上考える力が失せてしまったとも考えられた。
 実際に、このことに気付いた時、
「目からうろこが落ちた」
 という感覚になったのは事実だったが、そのおかげなのか、ふっと身体が宙に浮いたような感覚になったのも事実だった。
 あいりは、もう一人の自分をその時意識したのは、彼の存在が大きかったというのは分かっている。
――この人、本当に何も言おうとしないけど、何を考えているのかしら?
 という、寡黙な相手に感じる当たり前のことをあいりも感じたが、その裏で、
――この人、私に何かを考えさせようとして、わざと黙っているのかも知れない――
 とも感じてもいた。
 もう一人の自分は、自分が考えつかなかったことを考えてくれる存在なのかも知れない。
 だが、次の瞬間、あいりは別の考えが頭に浮かんできた。
――もう一人の自分が考えていることは、紙一重のことではないか――
 という思いである。
 それは、薄い皮一枚挟んだその向こう側に見えているものを、もう一人の自分が代弁してくれているだけだと思うと、その薄い皮というものがどういうものなのか、考えてみようと思った。
――ひょっとしてマジックミラーのようなものなのかも知れないわ――
 こちらから見ると鏡にしか見えないので、まさか向こうから見えているなど想像もつかないので、かなり分厚いものだと思い込んでいるという考えである。
 もし、それがマジックミラーのようなものだと思えば、こちらから向こうが見えるという思いに立ってみれば、薄い鏡を通して、ひょっとすると向こう側が見えるかも知れない。その考えは果たして無理なことなのだろうか。
 もう一人の自分の存在を意識していると、ふと今度は彼の様子が気になってきた。
作品名:異次元の辻褄合わせ 作家名:森本晃次