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異次元の辻褄合わせ

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「怖いとしか思わない」
 と感じていたはずなのに、思春期の男女を見ているので、それ以外の人であれば、どれほどの相手であっても、マシな気がしていた。
 それほどあいりは、同年代の男女のことを心底毛嫌いしていたのだった。
 実は同年代の男女を毛嫌いしているという感覚は、そのまま自分のことも毛嫌いしていることに通じているのは分かっている。
――本当に一番嫌いだと思っているのは、私自身なのかも知れない――
 と思っていた。
 そんな一番嫌いなのが自分だという認識を持ったのは、いつ頃からだったのか、自分でもよく分からない。実際に同年代の男女を嫌いになった時期と自分を嫌いだと思った時期とが頭の中で交錯し、理屈から考えれば、同年代の男女を嫌いになった方が先ではなければいけないと思うのに、実際の感覚では逆のような気がしてならなかった。意識が自分の中で曖昧になっていることで、あいりは時系列が頭の中で錯綜していることを感じていたのだ。
 時系列の錯綜は、思春期の男女であれば、誰にでもあるものだとあいりは思っていた。しかし、他人とあまり関わらないあいりには、そのことを尋ねる気がしなかった。
 そういう意味では思春期からは少し遠ざかっているが、人生の先輩と言ってもいい彼であれば、何でも聞けるのではないかと思ったのも、彼と再会できることを嬉しく感じた理由でもあった。
 あいりは、彼にさっそく聞いてみた。
「思春期というのは、時系列の錯綜を感じる時期なんですか?」
 言い方は難しい表現になってしまったが、あいりにはそれ以外の表現で気持ちを相手に伝えるすべを知らなかった。
 最初、彼は少し考えていたが、彼の様子を見ていると、質問の主旨は最初から理解できていたように思え、少し回答に時間が掛かったのは、何をどのように答えていいのかに迷ったのではないかとあいりは感じた。
 あいりとしても、この質問に正解があるとは思っていない。むしろ、どんな答えを聞いても、間違っていると感じるか、当て嵌っていると感じるかは、紙一重ではないかと思った。
 彼に対して感じていることは、どんな答えであっても、一定の説得力があり、彼の回答を自分であれば、理解できるのではないかと思うのだった。
 あいりは、期待していない回答を、ただしてもらえるだけでよかった。だが、彼は結局回答を渋り、その時点から、あいりに少し彼に対しての疑念を抱かせる結果になったのだった。
 その日のあいりは、彼との会話がほとんどできないでいた。元々会話が苦手だと思っていたあいりであったし、彼も口数が多い方ではないと思っていた。それなのにどうして再会が実現し、その再会に対して嬉しい気持ちになったのか、自分でもよく分からないでいた。
 どこに行くかなどという予定も最初から決めていたわけではない。誘いをかけてきた彼が計画しているものだと思ったあいりは、自分の甘さを痛感させられた。
――彼は誘ってみたけど、誘いに私が載ってくることはないと思っていたのかも知れないわね――
 と感じた。
 最初から予期していなかったことが思ってもいなかった方向に行ってしまったことで、普通であれば喜ぶところであろうが、彼とすれば、却って戸惑ってしまったのかも知れない。
 自分としては、
「ダメで元々」
 と思っていたことが、相手に賛同されてしまい、まったく慣れていないデートを余儀なくされたことで、彼自身の中にも後悔があったのだろう。
 後悔したまま戸惑いを持ったまま、今日という日を迎えて、彼ならどう考えたであろうか?
「ええい、出たとこ勝負」
 とでも思ったであろうか。
 もしそう思ったとすれば、最初だけは予測していて、そこから先は出たとこ勝負だと思っていたとすれば、最初の相手の態度が予想していないことであったら、自分から突破口を開こうとはしないのではないだろうか。相手に任せてしまって、言い方は悪いが相手に丸投げ、相手が嫌気がさしてしまえば、これ幸いと、その場をお開きにすればいいだけだっただろう。
 ただ、彼がそこまで開き直れるタイプの男性であるかは、あいりが見ていて微妙だった。自分が引っ込み思案なところがあるあいりなので、同じような性格の人であれば、よく分かるというものだ。
 似たような性格であっても、他人事で見て微妙なところは、かなりの差があるに違いない。そのことは普段から他人と自分を違う次元に置いて見ているあいりには分かっていることであった。
 彼は完全に自分のペースを乱しているようだった。その様子はあいりでなければ分からないに違いない。なぜならあくまでも彼はポーカーフェイスで、あいりと目を合わそうとしないだけだったからだ。
 相手と目を合わさないようにしている素振りはきっと目の前にいる相手にしか分かっていない。他人事として二人を見ているとすれば、彼の様子は、
「何かを真剣に考えている」
 という素振りにしか見えないからであろう。
 何かを考えているということは、少なくとも前を見ているということである。彼はまわりにそういう誤解をさせる素質があるのかも知れない。あいりも他人事として彼を見れば、同じことを考えたことだろう。
 だが、彼には目の前にいる人に、
「自分の性格を見抜かれてしまう」
 という特徴があるようだ。
 それはあいりだから見抜けたわけではなく、相手があいりではなくとも見抜けたことだろう。ただ、見抜ける人の性格はある程度絞られているかも知れない。誰もが彼と正対した時に、彼を理解できるというわけではなさそうだ。
 もし、正対した皆が彼の性格を見抜けるのだとすれば、もう少し彼のまわりに人の気配を感じることができるだろう。あいりが見ていて。
「この人に友達がいるような感じがしないわ」
 と感じさせたが、この思いはあいりだけが感じるものではないと思えた。
 友達というのは、自分の気持ちを素直に打ち明けて、話の幅を広げることのできる相手という意味の、
「狭義の友達」
 という意味合いもあれば、ただ挨拶を交わすだけの、その場しのぎに近い意味での、
「広義の友達」
 という人もいるだろう。
 彼には広義の友達はいるかも知れないが、決して狭義の友達がいるような気がしない。それはあいりと一緒にいて、目を合わそうとしないからだ。
 それを感じた時、あいりは彼と知り合ったあの時のことに疑念を感じるようになっていた。
 あの時、あいりのことを真剣に心配してくれていたのだと思っていた。だから彼の目はしっかりあいりと正対していて、目をしっかりと合わせていたのだと思っていたので、そんな彼が誘ってくれたことを素直に喜んでいたのだ。
 しかし、二度目に会った時には、彼は決して目を合わそうとはしない。目を合わせようとしないのは、照れ隠しであるとすれば、その素振りは明らかに違っている。最初からずっとポーカーフェイス、その表情にはまるで他人事のようにさえ感じられる。
――この人、誘ったことを後悔しているのかしら?
 とすぐに思わせるくらいにその顔に感情は感じられなかった。
作品名:異次元の辻褄合わせ 作家名:森本晃次