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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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最後の鍵を開く者 探偵奇談21

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夕刻を迎える須丸家の台所では、紫暮が夕飯の準備をしていた。両親は家のことを紫暮に任せ親戚宅の集まりにいっており、絢世もそれに同行している。連休には家庭の用事も多くあるだろうに、快く伊吹を受け入れてくれた一家に、申し訳なさと感謝でいっぱいだ。

「瑞はどうだい」
「少しだるそうで、眠ってます」
「そう。すまないね、君に全部任せてしまって。両親も急な用事で外しているから、今日は俺の夕飯で我慢してくれ」

とんでもないです、と伊吹は手を洗って紫暮の隣に立つ。紫暮の料理の腕前だってかなりのものなのだ。

「手伝います」
「ありがとう」

きんぴらゴボウとみそ汁の段取りを手伝いながら、伊吹はもやもやと消えぬ不安を感じていた。夕島に向けられた憎悪と、瑞の憔悴。この先また、夕島からの接触があったとき、自分は、瑞は、どう向き合えばよいのだろう。

「せっかく来てもらったのに、ごめんね」

ゴボウをささがきにしているところで、紫暮がそんなことを呟いた。

「え?」
「今日は一日、瑞の看病で潰れてしまっただろう?京都見物でもして楽しんでもらえればよかったのに、すまないね」
「いいんです、そんなの。元気になったらまた行けるから」

五月の夕暮れ、涼しい風が開け放たれた縁側から台所にまで届く。窓の外は紫の空が広がっていて、夏に向けて日が長くなってくのを感じさせる。電気をつけずともまだぼんやりと明るく、虫の鳴く声が細く聴こえてくる。

(元気に、なったら…)

自分の言葉を反芻しながら、伊吹は考える。夕島の脅威が、悪意が、消えることはあるのだろうか。自らを罪深いと悔いている瑞と、この先も屈託なく笑いあえる日が来るのだろうか…。

紫暮が口を開いたのは、徐々に台所に夜の気配が忍びよる頃だった。

「…ちょっと、おかしなことを聞くんだけれど」
「え?」
「いつだったか、君が子どもの頃、俺は君に会ってないか?」