最後の鍵を開く者 探偵奇談21
揺らぐ均衡
発熱した翌朝、伊吹より少し後に目覚めた瑞の熱は下がっていり、翌日の夕方には起き上がれるくらいに回復していた。それを見届け、伊吹はようやくホッとする。
「ほら」
伊吹はあの魔除けの鈴を、瑞に手渡す。ベッドに半身を起こした彼は、それを受け取るとすがるように胸に抱いた。
「先輩、ありがとう」
夕島に奪われた加護の一部が、ようやく瑞のもとに戻った。これで、今は安心だろう。俺だけじゃないよ、と伊吹は言う。
「たぶん颯馬も、もう一人のおまえも助けてくれたんだ」
夢の中で、颯馬の声を聞いた。そして夕島のもとまで導いてくれたのは、もう一人の、瑞。もう消えたはずだったのに、今回の騒動で再び伊吹らの前に姿を現した、「なかったことにした世界」から来た瑞だ…。
「…夢の中で俺も聞きました。先輩と夕島の会話も、もう一人の俺の言葉も」
瑞は、生気のない表情を膝に埋めて声を震わせた。
「やっと…報われたと思ったのに、駄目だったんだ…。天狗の言ったことは、全部正しかった…」
幾度も生まれ変われるほどの力を持っていた瑞の魂は、長く監視され、その存在とこれまでの行いを咎められてきた。それでも生きたいと願う気持ちを、伊吹とともに貫き通しているのだが、その報いがいま、自分達に返ってきている…。
「俺はいろんなひとを不幸にして、苦しませて、ここにいるのか…」
作品名:最後の鍵を開く者 探偵奇談21 作家名:ひなた眞白