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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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最後の鍵を開く者 探偵奇談21

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決意



体が宙に浮く感覚。指先から少しずつ覚醒し、伊吹はこれが特殊な夢に入った感覚だともうわかる。ゆっくりと目を開けると、夏の夜だった。夜の田舎道。古びたバス停に立ち、伊吹は隣に立つ瑞に気づいた。

瑞の夢は、もうひとつの世界の夢。かつて失った、この世のどこにも存在しない、懐かしい故郷。不思議だ。もうこの景色も隣の瑞の存在も、決して手の届かない幻想などではない。今の自分を構成する、大切な一部として認識出来る。とても身近なのにはるかに遠い。それでいて決して現実とは切り離せない世界。

「大丈夫か」

瑞が、気遣うように聞いてくるのが可笑しかった。こうやって会うのが当たり前になっているから忘れてしまいそうになるが、これはあってはならないことなのだ。

「俺は平気だ。あいつの方が、もっと参ってる…」
「そうか…」

夕島との邂逅で一番傷ついているのは、瑞だ。

少し歩こう、と誘われる。蛍が飛び交う、水の張られた田んぼ道を歩く。季節は夏だ。青い稲が夜風に揺れている。

「いいのか、こんな頻繁に俺に会いに来て」

そう伝えると、瑞は声を出して笑った。

「よくないのだろうけど、許されてるということは必要な邂逅なんだと言い聞かせてる。天狗はきっと怒っているだろうけど」
「この騒動に乗じて好き勝手してるってわけだ」
「すまないな」
「…いや、俺は嬉しいよ」

彼もまた、静かに消えていくわけにはいかなくなったのだ。己の因果が、この時代の伊吹らに報いていることに、心を痛めている。