最後の鍵を開く者 探偵奇談21
落ち着け、と自身に言い聞かせたのち、極力平静を装って瑞は答えた。
「…いいよ、切る。でもちょっとだけ、待ってくれる?」
「え?」
自分の気持ちが、ちゃんとはっきり郁に向くまで。きちんと真正面から向き合えるようになるまで。郁の真摯な思いに、中途半端な興味や好意で応えるわけにはいかないから。
「…俺、いろいろちゃんとするから、待っててほしい。それまで、誰にも、切らせないで。絶対」
きょとんとした表情を浮かべ、郁は瑞を見つめる。
彼女の口から好きだと言わせると、あのとき意地悪く決意した瑞だったが、どう考えても好きだと伝えずにいられなくなるのは、自分の方だ。もう隠せないしごまかせない。
彼女は特別なのだ。自分にとって、特別な女の子。身勝手はもう百も承知だけれど、こうなったらもう誰にも渡したくないと強烈に思った。
「わかった。待ってるね!」
色づくように明るい口調で、郁が嬉しそうに答える。
「うん、約束」
星空の下で、ゆっくりと心が結ばれていく。
.
作品名:最後の鍵を開く者 探偵奇談21 作家名:ひなた眞白