最後の鍵を開く者 探偵奇談21
何を引き換えにしても
「郁ちゃん、お風呂どうぞ」
「はい!ありがとうございます」
「これ、わたしのパジャマだけど、使ってね」
郁が絢世に呼ばれて風呂へ行く。伊吹は、瑞とともにここへきてあったこと、夕島柊也についてを颯馬に説明する。颯馬は微動だにせず聞いていたが、瑞が話し終えると、ふうん、と呆れとも諦めともつかないため息をもらすのだった。
「それってもう、魂に憑かれてるってことだから、どうしようもなくない?死ぬまで追いかけて来る的な」
颯馬がさらりと恐ろしいことを言うので、伊吹はぞっとする。隣の瑞が畳の上に視線を落としたままで、静かに紡いだ。
「…このまま、先輩や一之瀬だけじゃなくて、家族や友達にまで、夕島の悪意が及ぶようなことになったらって考えると怖い。それだけは…」
真剣に思い悩んでいる瑞の横顔は、かわいそうなくらい憔悴している。伊吹は、気の利いたことの一つも言えず、同じように黙するしかなかった。
「だよね」
茶化せない雰囲気を察してか、颯馬もまた黙り込む。沈黙が落ちて静かになる。夜の静けさが窓から忍び寄り、伊吹らの会話を飲み込んでいるような感覚だ。
作品名:最後の鍵を開く者 探偵奇談21 作家名:ひなた眞白