最後の鍵を開く者 探偵奇談21
(お役目様って言った…?何だっけ、聞いたことがあるな)
その単語は妙に懐かしさを感じさせる。それと同時に腹の底が重くなるような嫌な感覚を呼び覚ます。お役目様、役目…。
(俺の役目…)
雨が降らない――
「…!」
心臓の鼓動が速くなる。ぎゅっと瞑った瞼の奥で、炎のような赤い光が炸裂する。だめだ、この記憶はよくない。頭を振って振り払う。
(お役目様…って、)
脳裏に浮かぶ姿。
「ああっ!」
瑞は思わず声を上げた。うるさい、と紫暮が振り返って窘めるが構っていられない。
(…あの人だ!)
沓薙山でも、天狗に連れまわされたかつての記憶の中でも、瑞はその人に会っている。
柔和な老人。強烈な懐かしさを放つ、和装の老人。
(あのひとだ、絶対!お役目様…)
思えば、伊吹との因縁を手繰る場面には必ずいた。きっとこの輪廻の中で、強い縁を持っているに違いない。螺旋の中にあり、瑞を幾度も導いてくれたということは、それなりに力を持つ者であることは確かだ。
(その人に、会うことが出来れば…)
何か打開策が見いだせるかもしれない。でも、どうやって接触すればいいのだろう…。いまはもう「なかったこと」になっている、形も思い出もない彼の人に。
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作品名:最後の鍵を開く者 探偵奇談21 作家名:ひなた眞白