最後の鍵を開く者 探偵奇談21
瑞には、いつのときも必ず伊吹がそばにいたけれど。
夕島は、あの強烈な憎悪と幾多の死を、ずっと一人で負っているのだ…。気が遠くなるほどの繰り返しの中で。
「瑞」
コーヒーを淹れている兄が、こちらに背を向けたままで瑞を呼んだ。
「…なに」
「……」
兄は黙している。ぼんやりしているのか?なに、ともう一度促そうとしたとき。
「お役目様なら、」
オヤクメサマ?
「おまえに手を貸してくれるかもしれん」
「…え、なに?」
紫暮はそれきり黙した。
「…兄ちゃん?」
「え?」
振り返った紫暮が不思議そうに瑞を見ている。
「いま、なんか、言った?」
「いや…なにも。どうした瑞」
どうしたはこっちのセリフなんですけど。怖いんですけど。
作品名:最後の鍵を開く者 探偵奇談21 作家名:ひなた眞白