螺旋、再び 探偵奇談20
「そうや!瑞の先輩来てるっていうから、いっぱいおもろいの持ってきてん」
そう言って畳に置いてあったトートバッグから、翔太は何やらごぞごぞと取り出している。
「小学校んときの文集とかアルバムとか。中学んときのもあるで」
「ちょっと待て翔太!検閲させろ!」
見たい見たいと伊吹がはしゃいでいる。おかしなものを先輩に見せないでほしい、と瑞はガードしようとするが、もう遅い。
「大きくなったら……新幹線になりたい、だって。瑞にもそんな時期があったのか」
伊吹が文集をめくりながら笑っている。新幹線になりたいっておかしいでしょ。そこは新幹線の運転手でしょ。鉄の塊になるんかおまえは。6歳の自分につっこみをいれたくなる瑞だ。
「瑞は絵画とか図工が壊滅的にダメだったな。この卒園記念の絵、なに?地獄を表現してるのか?」
「ぐっ…」
ひどいことを言う兄だ。どこからどうみてもチューリップの咲き乱れる春の庭だろうが!教職を目指している癖に、美術的センスがなさすぎると思う。
「瑞が図工で作った作品、全部呪いの道具とか言われとったもん。小三の夏に作った、苦悶の表情を浮かべたカエルの貯金箱とかどうなったん?あれ今でも語り草やわ」
「あのピョンちゃんの貯金箱なら、俺が職場のデスクに飾ってるよ」
「おじちゃんすご!あれ怖ない?」
「すごいかわいいよ。癒される」
「おじちゃん瑞に甘いわあ」
みんな俺を肴に盛り上がりやがって、とちょっと面白くない瑞だ。
(卒業アルバムか…)
手に取ってページをめくる。小学校の頃の懐かしい顔ぶれが並んでいる。3クラスあったはずだ。1組から順番に、顔写真を確認していく。仲の良かった友達、ちょっと好きだった女の子、屈託なく笑っている自分。それらを素通りし瑞はページをめくりながら無意識に探している。あの冷たい微笑みを。
縁(えん)があったはずだと、颯馬は言っていたが…。
夕島柊也。
遠い過去から今日(こんにち)まで、繰り返し死に続けている者の名。
そしていま、瑞の日常の隙間に入り込み、こちらをじっと伺っている影の名。
先日新聞記事を検索し、その名をたくさん見つけた。すべて、事故や災害などで死亡している者の名前だった。瑞の探した記事は大正時代までだったが、きっとそれ以前の時代でも凄惨な死を遂げている者の中に、その名はある…。それはもう理由を見いだせない癖に、異様に強い力を持つ確信だった。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白