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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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螺旋、再び 探偵奇談20

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いつかの、だれか



手を洗って座敷に向かうと、大きな座卓の大きな更に豪華な食事が並んでおり、伊吹を驚かせた。寿司、山もりのポテトサラダ、天ぷら、鍋いっぱいの澄まし汁、筑前煮、名前の知らない豪勢で色とりどりのごちそう。

「さあ座って頂戴。みんなで食べましょ」

こんな大きな座卓も、大皿も、大人数で囲む食卓も、伊吹には初めての経験だった。

「遠慮しないで食べてね」
「すごい…ありがとうございます。いただきます」

瑞の父が刺身を手際よく準備してくれた。金沢に単身赴任しているという瑞の父は、今回の兄弟の帰省に合わせて休みをとったのだという。金沢の市場で仕入れたという魚は抜群に美味かった。

「瑞が先輩連れて来るっていうから、今日は母さんと張り切ったんです。お口に合うといいんだけど」

絢世がとうもろこしご飯をよそって伊吹に手渡し、笑う。

「父さん達も戻って来たから、今日は本当に賑やか。遠くから来てくれてありがとう」

何度も来訪の礼を言われるので、伊吹は恐縮してしまう。こちらこそ、こんなに歓迎してもらえるなんてと重ねて礼を言う。

「はい、からあげ追加」

紫暮が揚げたからあげもこの上なくおいしかった。

「めちゃくちゃ美味しい…!」
「紫暮、母さん変わるからあんたも食べなさい」

息子の帰省と伊吹の来訪を、本当に喜んでくれていることが伝わる。瑞が実家に寄り付かないと、いつだか紫暮が言っていたが、家族の中で食事をしている姿を見ると、別に仲が悪いわけでもないようだ。照れ隠しであるとか、兄への反抗心であるとか、自立したい思いであるとか、そういうものがあるのだろう。伊吹も瑞ほどではないが、家族を疎ましいと思った時期があったのを覚えている。無償の愛情に対して、素直になれない時期が。

「伊吹くんは明日、紫暮の大学に行くんだって?」

瑞の父が尋ねて来る。

「はい。大学ってどんな雰囲気なのか見せてもらってきます」
「受験生だもんね。ゆっくり見て回るといい。瑞はどうするんだい」

俺はごろごろしてるよ、と父に返す瑞。ごろごろするなら、一緒に大学見学に来ればいいのに。紫暮に借りを作りたくないという伊吹には理解しがたい理由で、瑞はその誘いをすでに断っている。

「こんばんわあ」

玄関から、元気な声が飛んでくる。
翔太くんね、と瑞の母が笑った。どうぞー、と彼女が呼びかけるとお邪魔しますと先ほど窓の下で瑞に手を振っていたの青年が顔を出した。

「瑞―!」
「翔太!久しぶり!」
「翔ちゃん座って座って。はいお箸」

幼馴染というから、勝手知ったる須丸家なのだろう。瑞の母らは至って自然に彼を食卓に加えた。学校の友達といるときと少し違う瑞の表情も嬉しそうだ。幼い頃からを知る友人との間にある、少しだけ特別な姿なのかもしれない。