螺旋、再び 探偵奇談20
都会的な雰囲気を持つ瑞が、こんな自然の中でのびのびと育ったことが、伊吹には少し意外で、そしてとても新鮮だった。甘えん坊の末っ子として、この家でスクスクと育ち、友達と野山を駆け回っていたのか。そんな微笑ましいことを考えているうちに、ほぐれた緊張と疲れとのためか、睡魔がやってくる。瑞に倣って横になった。
(ああ、何だろう。ホッとする…)
ひんやりとした木の床の心地よさ。風が吹くたびに、庭の木々がさわさわと音をたてている。時折聴こえてくる声や足音は、階下の家族のものだろう。ほのかに香る香水は、いつも瑞がつけているイチジクの香り。
その一つ一つの感覚を意識でなぞっているうちに、重たい瞼はすぐに閉じてしまった。
… … … …
「伊吹」
誰かに呼ばれている。伊吹、と繰り返し声が降ってくる。
「伊吹、申し訳ない」
謝られた。何のことだと応えたいのだが、出来ない。この心地のいい眠りが、話すことや目を開けることを邪魔してしまう。眠らせてほしい。ものすごくいい夢をみていた気がするのに邪魔をしないでくれないか。
「またおまえに、迷惑をかけることになる」
え?
この声は。
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作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白