螺旋、再び 探偵奇談20
「…そうまでして助けたいの?」
驚愕と怒りがない交ぜになった表情を伊吹に向けている。
「あいつのどこにそんな価値があるんだよ」
「……」
「なんで、」
なんで あいつばっかり あいつばっかり
地獄の底から響くように絞り出された声に、伊吹は呑まれる。声が出せない。
こいつは悪意の塊。瑞に対する異常なまでの執着心と憎悪を持つ魔。
だけど。
(…何でだろう、)
伊吹は憐れみを感じるのだ。非情な交換条件を突き付けてくる卑劣極まりないこの男を、心のどこかでかわいそうだと感じる自分がいる。ここまで悪意に染まっている彼の内側を、知ってやらなくてはならない。そんな気持ちにさせられるのだ。
「…夕島、おまえは一体何なんだ。俺と瑞は、夕島に何を」
「うるさいんだよ!!」
夕島は吼え、顔を上げた。今までにない感情の発露に、伊吹は身構えた。
「二人一緒に不幸にしてやる!!生まれ変わるべきじゃなかったって、思い知らせてやる!!おまえら二人のせいで、俺は、俺は…!!」
ギャアと大きな鳴き声がした。空が裂けたかというようなその大きな音。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白