螺旋、再び 探偵奇談20
氷のように冷たい目で、泣くわめく家族を見つめていたかと思うと、彼は踵をかえして歩き出す。
「待っ…」
追いかけようとしたとき、再び景色が剥がれ落ちた。ひどい眩暈がする。屈みこんでそれに耐えていた伊吹は、体に微かな振動を感じて目を開ける。
「ここは…」
伊吹はバスの中にいた。相変わらず、世界は灰色だ。修学旅行だろうか。たくさんの学生の楽しそうな談笑が聞こえてくる。バスの通路に立ち、伊吹は瑞を探す。いるはずだ。ここに。
学生たちは、はしゃいでいる。高速道路を走るバスは、彼らを楽しい旅へと導いてくれるはずなのだ。だが、それは叶わない。伊吹にはわかる。
「瑞…」
通路の前方に立っているのは、やはり瑞だった。
「これも違う。だめだ」
彼はその光景を氷の様に感情のない瞳で見つめたのち。
や り な お し
強い衝撃とともに、体を右側に引っ張られる感覚。大きな音と、悲鳴。再び目を開けたとき、横転したらしいバスの中は、地獄絵図と化していた。伊吹のそばに、血まみれの生徒たちが横ったわっている。まだ息のある者もいるが、伊吹にはどうすることも出来ない。
「瑞、なんでこんなことするんだ…おまえがやってるのか?」
瑞には伊吹の声など聴こえていない。ふいと背中を見せて去っていくのを追いかけようとしたとき、また違う灰色の光景が現れた。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白