螺旋、再び 探偵奇談20
やりなおし
気が付いたら、伊吹は瑞の部屋ではなく、見知らぬ景色の中に立っていた。
「ここが、裏側…?」
以前、天狗に放り込まれた世界にいたときと似ている。夢のわりに意識ははっきりしているし、でも現実にはありえない光景。無人の町だ。そして、モノクロの世界。色がない。白黒だった。昨日紫暮と歩いた、京都市内のどこかだ。人気が全くない。町家に暮らす人々も、観光客もいない。京都の町から、人が消え失せている。景色には色がなかった。家も、道も、川の水も、そのすべてが灰色だった。そして、空だけが赤い。こんな情景は、現世には存在しない。
(この広い街をうろついて、瑞を探せばいいのか?無茶だろ)
不安がつきまとってくる。必ず見つけるという強い意思はあっても、ここは伊吹にどうこう出来る次元の世界ではないし、ひとりぼっちなのだ。
「待たれよ」
「わっ!」
突然声を掛けられ、伊吹は振り返った。橋を渡ろうとしたら、突然呼び止められたのだ。
傘地蔵のようなあれを頭に乗せた、黒装束の者が背後に立っている。托鉢、というのか。そういう服装で、手には錫杖を持っていた。
「おぬし、この先に行くつもりか」
「は、はい」
厳しい声色に気圧されてしまう。老いた男の声だが、鞭のようにはじき返すようなしなりがあった。
「こんなところに入り込むとは、よほど訳ありと見受けるが…」
「あの、どうしても行かないとダメなんです」
ふむ、と男は鋭い眼光で伊吹を見定めている。
「おぬし、強い加護を持っておるな。だがこの先はそれよりも強き悪意が待ち構えておるぞ」
悪意…。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白