螺旋、再び 探偵奇談20
再びの邂逅
「瑞、大丈夫か?」
紫暮が瑞を呼ぶが、彼は深く眠っているようで反応しない。熱が高いようで、苦しそうに呼吸をしている。
「38度。明日の朝一番に病院に行こう。今夜はこのまま様子を見るよ」
氷枕を作ってくる、と紫暮は再び出て行った。伊吹はベッドに座って苦しそうな瑞の顔を見つめた。ただの風邪や疲労ならいいが、嫌な予感を振り払えない。先ほどの謎の呼びかけに始まり、眠る前の瑞が零した不可思議な言葉の数。「怖い」としきりに訴えていたように思う。
「瑞?」
彼の腕が伸びて、空を掴むように彷徨う。まるで寄りかかるところを探しているようなその動きに。伊吹は思わずその手を握って呼びかけた。
「瑞、つらいのか」
帰れない、と小さく嗄れたような声で瑞が答える。伊吹は彼の口元に耳を寄せる。
「え?」
帰れない。もう一度聞こえた。
「おまえ、いまどこにいるんだ…」
にわかに不安が押し寄せて来る。このま目覚めない。そんなはずないのに、そんな予感がよぎるのだ。
「とら、れた…」
「え?」
「すず…」
うわ言がしばらく続き、瑞は再び呼吸を繰り返す。
(鈴…?確か颯馬にもらったとか言ってたっけ)
詳しくは聞いていないが、ちょっと嫌なことが続いたから、お守り替わりにもっているのだと言っていたように思う。
瑞は何かに怯えていた。颯馬から与えられたお守りを奪われたというのなら、沓薙の加護が得られないということだ。瑞の不可思議な力の源は、もうあるべき場所に返している。弱まってしまったその部分に、何かにつけこまれているとしたら…。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白