螺旋、再び 探偵奇談20
訝しんだ伊吹が、額に手を当てる。冷たい手の感触。
「熱があるぞ」
「え、うそでしょ…」
「紫暮さんを呼んでくる」
慌てた様子で部屋を出て行く伊吹を見送る背に、あの声が掛かってくる。
「な。言ったろ?」
開け放たれた窓の桟に、夕島が座っている。夕闇を背に、まるでそこから抜け出してきたかのような夜の匂いをまとって。
「おまえ…何がしたいわけ…」
もういい加減にしてくれ。どうして俺につきまとうんだ。
「気に食わないの。おまえが、幸せそうなのが」
俺がおまえに何をしたって言うんだ。おまえなんて知らない。どうして俺の人生に介入してくるんだ。もうやめてくれよ。そう言ってやりたいのに、声が出ない。強大な力を前にして、瑞は畏怖している。恐ろしくて仕方がない。こいつには、どうやっても敵わないと、本能がわかっているから。
「それにしてもおまえは、あの先輩を大事にしてるんだな」
伊吹のことを言われ、びくりと腕が震えた。この絶対的な悪意が伊吹に向かう。それだけでもう、深い絶望が沸いてくる。
「悪い気に中てられてヘタってる瑞なんて、つまんないな。あの先輩に遊んでもらおう」
よせ、と言いたいのに、もう苦しい呼吸しか出来ない。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白