螺旋、再び 探偵奇談20
水の流れる音がする。雨?違う。これは…川?昼間、翔太と言ったあの川だ。沈んでいたのは、そう、あいつだった。
どうして俺を追いかけてくるんだ。どこまでも、どこまでも。まとわりついて離れない不気味な微笑みが蘇る。
「瑞」
優しい声に呼ばれて覚醒する。日の暮れた薄暗い部屋。伊吹が覗き込んでいるのがわかった。
「…おかえり先輩」
「ただいま」
充実した笑みを浮かべているところを見ると、きっと有意義な時間を過ごせたのだろう。聞かずともわかる。瑞はだるい半身を起こして、伊吹に向き合う。
「少し具体的に進路を考えられそうだ」
「そっか…じゃあよかった。先輩明日はどうするの?」
「明日はもう何もない。一緒に出掛けよう」
伊吹が柔らかく笑っている。それを見るだけでホッとする。
「うん、出掛けよ」
「瑞どこ行きたい?」
「のんびり、散歩したい…」
受験とか進路とか、怖いこととか、全部忘れたい。
「いいな散歩」
「観光地とか人ごみじゃなくて…明るくて、静かなとこで…それで、」
それで、と瑞は無意識に声を潜めている。
「…瑞?」
だって、きっと聞かれている…。あいつは、俺の幸せをずっと見ている。どうやって壊してやろうかって、笑っている…。
「それで…怖いものがいないとこがいい」
「…どうした?おまえ、なんか変だぞ」
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白