螺旋、再び 探偵奇談20
帰らないと。伊吹は資料をしまって立ち上がる。そこへ紫暮が戻ってきた。
「お待たせ。そろそろ帰ろうか」
「はい」
焦りを見せないように取り繕いながらも、伊吹は嫌な予感を振りほどけない。
「あの、ちょっと瑞に電話してもいいですか」
「うん」
不審がることもなく紫暮が了承する。しかし出ない。コール音だけが耳を通り抜けていく。ますます気が急く。
「出ないかい」
「はい…翔太くんと遊んでるのかもしれないですね…」
そうはいいつつ、声を聞けないと、無事を確認しないと不安でたまらない。
「絢世が帰っているはずだから電話してみるよ」
紫暮がそう言って、妹に電話をしてくれる。絢世がすぐに出たようで、紫暮は瑞について尋ねてくれた。
「瑞は?うん…うん…そう。わかった」
寝てるそうだよと紫暮は通話を切って答えた。
「翔太と遊び回って疲れたそうだ」
「そうですか…」
家にはいるようだ。少しだけ、安堵する。
さきほどの声の主は誰だったのだろう。なにを言いたかったのだろう。瑞と関わるようになってかっら、こういった理屈では説明出来ないことに幾度も出会ってきた。だから今回も、何かある気がするのだ。
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作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白